意欲引き出す授業づくり 道家庭科教育協会研究大会の研究概要
(関係団体 2016-01-14付)

家庭科教育協研究大会
道家庭科教育協研究大会

 道家庭科教育協会(佐々木貴子会長)の第六十六回研究大会(昨年十二月三日付2面既報)では、研究部の半澤亮教諭が研究概要を説明した=写真=。研究主題「よりよい生活を創る力をはぐくむ家庭科教育~学びを生活に生かす意欲をひきだす授業づくり」のもと、児童生徒が「問い」をもち、追究、解決する題材計画、自らの生活に生かす評価の機能について研究してきた成果を報告した。

 研究概要はつぎのとおり。

▼研究仮説「教師は児童生徒が解決したいと思う学習課題を吟味し、解決する課程と、評価の機能を大切にした授業を展開することで、児童生徒の学びを生活に生かそうとする意欲を引き出すことにつながる。さらに、小学校・中学校・高校を通してこのような授業を継続的に実践していくことで、児童生徒はより良い生活を創る力を養うことができる」

 本年度は、「問い」という言葉を使用しながら研究を進めていく。「問い」とは児童生徒がこれまでの認識や経験との違いから生じた疑問のうち、解決したいと強く願うものと本協会ではとらえている。

 児童生徒が題材や授業を通して「問い」をもつことは、意欲的に学習に臨んでいくことにもつながる。さらに、「問い」を解決するためには仲間と積極的にかかわり合いをもつであろう。解決後は達成感や成就感を味わうことで、つぎへの新たな「問い」も生まれてくるのではないかと考える。

 また、ここで扱う「問い」は授業の中で生まれることから、教師が本時でねらう児童生徒の姿(目標)に近づくためのものである。よって、学習課題と密接にかかわりをもっているいわば「ニアリーイコール」の関係をもっているととらえている。

 家庭科における「問い」とは、より良い生活を目指して今の自分の生活を見つめ直すことである。したがって、児童生徒が出会った対象(ヒト・コト・モノ)と自身がもつ生活経験との際から生じた疑問や、これからの自他のより良い生活を展望していく過程で生じた疑問が「問い」となる。

 本協会ではこれまでの実践研究において、評価の機能を大切にしながら進めてきた。本年度の研究では、さらに、評価の対象と場面を明確にすることで、児童生徒が自らの成長を実感し、学んだことを今後の生活に生かしていこうとする意欲を引き出すことにもつながると考えた。そのためにも、教師は常に児童生徒の授業の様子を観察し、個や集団に対して適宜適切な評価を行っていく。

 このような実践を、小学校から高校までを一貫して行うことで、児童生徒はスパイラルに家庭科の学習を進めていくことが可能となる。さらに、現行の家庭科のカリキュラムは小学校、中学校、高校と段階を踏んで継続、発展している。そのため、求める児童生徒の姿の実現を目指し、それぞれの校種がつながりを意識した実践研究を進めていくことで児童生徒のより良い生活をつくる力が養われていくものと考えている。

◆多角的な視点で解決策導き

▼本年度の研究の視点

①児童生徒が「問い」をもち、追究し、解決することができる題材計画

②児童生徒が学びを自らの生活に生かすための評価の機能

▽児童生徒が解決したいと思う学習課題の設定(問いをもつ)

 題材や授業を通して、児童生徒が教材と出会うということを大切にしたい。教材との出会いによって、児童生徒は解決したいと強く願う「問い」をもつことが可能になると考えるからである。教師が児童生徒の実態を鑑み、深く教材研究を行うことで、題材を通してどのようなことを学ばせたいのかを明らかにしていく。

 それを繰り返し、問いを大切にした授業を実践することで、児童生徒の意欲が題材の中でより育まれていくのである。

 以下の内容は児童生徒への授業における「問い」のもたせ方の手立てである。

・児童生徒が「当たり前」だと思っていることから「問い」をもつ

・児童生徒が「他者とのかかわり」の中で「問い」をもつ

・児童生徒の「できない」「分からない」という体験から「問い」をもつ

▽仲間とのかかわり合いを通して、児童生徒が「問い」を解決していく場の設定(問いを解決する)

 なぜ、児童生徒は「問い」を解決するために他者に「問う」必要があるのだろうか。家庭科の目標の一つである生活を工夫し創造する能力の育成を例に挙げて説明する。工夫し創造する能力とは、自分の生活について見直し、課題を見つけ、その解決を目指して自分なりに工夫し創造することである。

 具体的には、新しい価値の創造となる。ゆえに、授業では正解ではなく、最適解を導き出すことに重点が置かれる。多様な価値観が存在する家庭生活における最適解を個人の考えで導き出すことは難しいため、他者の考えも考慮しつつ、多角的な視点をもちながら解決策を導き出していく必要がある。

 また、基礎的・基本的な知識や技能の習得の際にも、他者を観察したり、まねたり、アドバイスをもらったり、より効果的な方法を考えたりするなど、他者の存在は大きく寄与する。「問い」を解決するためには他者に「問う」ことや、他者から「問い」を返されることも必要なのである。

 つまり、自分を見つめ直すことや自分に問いかけること、また、仲間とともに課題を解決していくこと、他者との出会いを大切にしながら、児童生徒が「問い」を解決する場を設定していくことが必要である。

▽児童生徒が自らの変容を実感できるような捉えと促しの工夫

 「評価」とは児童生徒の実態をとらえ、成長を促すこととして、これまで研究を進めてきている。また、常に評価を行うのは教師だけというわけではなく、児童生徒自身であったり、仲間とのかかわり合いの中で行ったりもする。題材や授業の活動場面や振り返りの場面で適切な評価を行っていくことで、児童生徒が自らの変容に気がついたり、成長を実感できたりするようになると考える。その経験が自信につながり、今後より良い生活をつくり出そうとする意欲になっていくのである。

▽児童生徒が学んだ内容と生活とのつながりを感じることができる振り返り

 題材や授業を通して、学んだことや、その学んだことをどのように自らの生活に生かしていくのかを振り返ることができる場を設定する。そこには、教師が個々の考えの変化や成長を見取り、伝えることや学びを生活とつなげることができるような促しも必要になる。

 ただし、仲間同士で互いの成長を認め合ったり、学んだことを自分たちの生活にどのようにして生かしていくことができるのかを交流し合ったりすることも可能であると考える。つまり、評価は必ずしも教師側からとは限らず、自分自身や仲間同士で行うこともあるということである。

◆事象見つめる場面設定が重要

▼視点①にかかわって

▽児童生徒が「当たり前」だと思っていることから「問い」を生む

 児童生徒が日常生活で培った生活経験は、児童生徒自身のものになっており、言い換えれば「当たり前」のこととして認識されている。その児童生徒の生活経験に着目し、「当たり前」が本当に「当たり前」なのかをとらえ直す教材や題材を工夫し設定する。

 そうすることで、児童生徒は自分がもっている生活経験との差異から生じる違和感を解消したいと思い、「問い」が生まれる。

 また、人は自分の置かれた環境の中で、無意識のうちに「当たり前」を形づくっていることが少なくない。例えば、各家庭の衣食住の文化や、日本の文化、現在の文化、幼児に対するイメージ、自分が育った環境などが挙げられる。

 しかし、実際に体験してみたり、客観的なデータをもとに検証したりすることで、「当たり前」ではない現実が多数存在していることに気づく。

 そして、事象を意識して見ていくことで、今まで見えなかったものや、考えもしなかったことに出会い、そこから生じた疑問を解決したいと願ったとき、児童生徒の「問い」が生まれる。日々の生活の中で習慣化して意識されない側面「当たり前」にこそ、家庭科の授業は焦点を当て、その事象を見つめる場を設定することが重要と考える。

 さらに、「当たり前」から生まれた児童生徒の「問い」を教師が束ねることで、学習課題の共有化の手立てともなる。

▽児童生徒が「他者とのかかわり」の中で「問い」を生む

 「問い」が生じる過程には、他者という存在が間接的であれ、直接的であれ大いにかかわっている。なぜなら、自分がもっている価値観と仲間がもっている価値観の差異に疑問をもち、それを解消、解決したいと思い「問い」が生まれることが多々存在するからである。

 特に、自分が「当たり前」と思っていることに対して、自らに揺さぶりをかけることは難しい。従って、家庭生活を学習対象とする家庭科では、他者との考えの交流が「問い」を生むために重要な意味合いをもつ。他者の範囲も広く、学級の仲間だけではなく、幼児、家庭、地域に住まう人々などがその対象となる。

 他者と必然的にかかわる場面を設定することで、自分とは異なる価値観にふれ、「問い」が生まれるであろう。また、他者とかかわることで生まれる「問い」は、授業の導入だけではなく、課題解決に向けた話し合いの最中や、振り返りの場面にも新たな「問い」として生まれることが考えられる。

▽児童生徒の「できない」「分からない」という体験から「問い」を生む

 家庭科は実学、すなわち机上の知識のみで終わらない「実践の学」である。その内容は家庭生活全般にわたって、児童生徒は家庭生活をより良くするための知識や技術を、授業を通して学んでいく。

 その実践の中で「できない」「分からない」ということを体験し、「できるようになりたい」「分かるようになりたい」と願い、その解決を目指したときに生徒の中に「問い」が生まれる。児童生徒に寄り添った題材や教材を準備し、実践を行っていく必要がある。

▼視点②にかかわって

▽児童生徒の「できない」「分からない」が、「できた」「分かった」になる場を設定する

 「できない」「分からない」から生まれた「問い」を、他者に「問う」ことで解決した内容を確認することができる場を設定する。つまり、問い返しの場面を設定するということである。

 具体的には、実技や実験・実習であればもう一度やってみたり、授業を通して自分の考えがどのように変容したかをワークシートで確認したり、板書内容を確認することで振り返ったりする場を、題材や授業に組み込んでいく。そうすることで、自らの変容や成長を自覚し、意欲の喚起につながっていくものと考える。

▽児童生徒が学んだ内容をこれからの生活に生かそうとする場を設定する

 授業終末場面に振り返りの場を設定する。授業を通して、本時の学びが自分にとってどのような意味があったのかという記述だけではなく、これからの自分の生活にどのように生かしていけるかを含めた内容を記述するように促す。

 そして、記述した内容を家庭生活において生かすことで生活は豊かになり、児童生徒のより良い生活をつくる力が育まれていくものだと考える。

(関係団体 2016-01-14付)

その他の記事( 関係団体)

特選8人、奨励賞12人たたえる 第46回道教職員美術展表彰式

道教職員美術展表彰式  第四十六回道教職員美術展表彰式が九日、ホテルライフォート札幌で開かれた。千葉俊文公立学校共済組合北海道支部副支部長が受賞者に賞状を手渡し、「子どもたちが文化や芸術に親しむ機会を数多くつくり...

(2016-01-15)  全て読む

北専各連札幌支部新年研修会 役割をしっかり見据え 現職教員が危機管理学ぶ

北専各連札幌支部新年研修会  道私立専修学校各種学校連合会札幌支部は十二日、札幌ガーデンパレスで二十七年度現職教員新年研修会を開催した=写真=。専修学校・各種学校の設置者、校長や副校長・教頭、教職員など約百十人が参加。...

(2016-01-15)  全て読む

4種校長会長28年新春インタビュー②北海道小学校長会会長・小西俊之氏 学びの力を一人ひとりに 豊かな心の育成、一層の充実を

校長会インタ小西俊之  ―校長会としての新年展望についてお聞かせ下さい。  早いもので二十七年度も新たな年を迎え、本会の活動も二月の理事研修会などを残すばかりとなりました。本年度は、本会の歴史と伝統を受け継ぎ、...

(2016-01-14)  全て読む

札幌市中学校教頭会が新年講演会 地域と連携し教育向上を 講師に元市P協会長・山本氏

札幌市中学校教頭会新年講演会  札幌市中学校教頭会(星野正彦会長)は七日、ホテルライフォート札幌で二十七年度新年講演会を開催した=写真=。元札幌市PTA協議会会長の山本清和氏が「今、学校に求められていること」と題して講演...

(2016-01-14)  全て読む

道小が第5回理事研開く 〝一寸千貫〟の心で進む 次年度活動計画など協議

道小第5回理事研  道小学校長会(松井光一会長)は十二日、ホテルライフォート札幌で二十七年度第五回理事研修会を開催した=写真=。ことし九月に開く第五十九回教育研究小樽大会など、活動計画について協議。松井会長は...

(2016-01-14)  全て読む

道公立学校事務長会―人材育成等にかかるアンケート調査結果 危機管理・実務能力などの資質向上重要 職員のコミュニケーションスキル求める

 道公立学校事務長会(永井進会長)は、五十歳以下の事務長(六十校)を対象とした「人材育成等にかかるアンケート調査」の集計結果をまとめた。学校運営の機能強化を図るために初めて調査したもの。事務...

(2016-01-14)  全て読む

学び・育ちを支え、つなげ 高相研が第44回研究大会開く

高相研研究大会  道高校教育相談研究会(=高相研、会長・小林憲雄札幌稲雲高校長)は九日、北海学園大学で第四十四回研究大会を開催した=写真=。研究主題「学びや育ちを見守り、支え、つなげる学校教育相談を目指して...

(2016-01-14)  全て読む

4種校長会長28年新春インタビュー①北海道小学校長会会長・松井光一氏 〝チーム北海道〟具現化へ 本道教育の質向上目指して

道小松井会長  ―新年に当たって校長会としての展望をお聞かせ下さい  初夢に、ビル清掃のプロで羽田空港に勤務されている日本一の清掃員、新津春子さんが出てきて言いました。  「目標をもって、日々努力し、...

(2016-01-13)  全て読む

渡島小中校長会が冬季教育研修セミナー 専門職の使命感高めて 教育情勢や学校経営理解深化

渡島小中校長会教育研究セミナー  【函館発】渡島小中学校長会(川野真一会長)は七日、北斗市農業振興センターで二十七年度冬季教育研修セミナーを開催した。約百二十人が参加。各種研修を通し教育情勢や学校経営等に関して国や道の施策...

(2016-01-13)  全て読む

スポーツ事故防止対策推進へセミナー きめ細かい危機管理を 160人が外傷予防策など議論

スポーツ事故防止対策セミナー  独立行政法人日本スポーツ振興センターは八日、札幌コンベンションセンターでスポーツ庁委託事業スポーツ事故防止対策推進事業セミナー「学校でのスポーツ事故を防ぐために」を開催した=写真=。本年度...

(2016-01-13)  全て読む