【4種校長会長に聞く】 第3回 北海道高等学校長協会 宮下聡氏 教育財産アレンジし生徒を育成(関係団体 2020-01-20付)
北海道高等学校長協会・宮下聡会長
―校長会としての新年展望をお聞かせください。
昨年末は大学入試改革をめぐって世の中が大変騒がしい状況になりました。大学入学共通テストの目玉であった英語民間試験の活用と、記述式問題の出題がいずれも見送られることになったからです。
現在は大学入試改革ばかりが注目されていますが、今行われている教育改革は、高校教育、大学教育、そして大学入学者選抜を三位一体で改革する高大接続改革であることを忘れてはいけません。
大学入学後、そして、その先の時代を生き抜くための資質・能力の基礎を高校でいかに育むのか、学校が長年蓄えた教育財産をいかに新しい時代に合わせてアレンジし、生徒の資質・能力の育成・向上につなげていくのかなど、各校の議論と実践を蓄積して、校長協会は新学習指導要領が目指す教育を確実に実現し、本道の新たな時代を開く高校教育の創造に努めていかなければなりません。
今後、教育改革はこれまで以上に高校教育に重点を置いたものになると考えられます。
教育再生実行会議が昨年5月、内閣総理大臣に提言した第11次提言では、普通科の在り方の見直しや大学入試改革の必要性について取り上げ、文理両方を学ぶ人材の育成が急務であること、文系・理系に偏った試験からの脱却を促すことなどが述べられています。
普通科の類型については、自身のキャリアをデザインする力の育成、グローバルに活躍するリーダーの素養の育成、科学技術分野でのイノベーターとしての素養の育成、地域課題の解決などを通した探究的な学びなどが具体的に例示されています。
平成30年に行われた民法改正によって成年年齢が令和4年度から満18歳になり、2年度に高校に入学する生徒は3年生になって誕生日を迎えると成年に達することとなります。
成年に達すると、単独で意思決定を行うことが可能となり、未成年を保護する様々な法規定が適用されなくなります。学校では成年に達した生徒に関する在学中の諸手続を適切に行うことが必要となります。
一方、教員の長時間労働について中央教育審議会で議論され、昨年1月に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」が出されました。
公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドラインでは、3年度を目途に1日の勤務時間を超えた時間の1ヵ月の合計が45時間を超えないようにすることが求められています。これまでの日本型教育が尊重していた教育の質を低下させず、教員の本務である授業に専念できる環境を整える働き方改革を推進するためには、勤務時間の管理にとどまらない構造的な対策が必要と考えます。
これまで学校教育が担ってきたことを、地域や保護者の理解を得て手放していく勇気も学校には求められています。一方、机上の整理、書類の保存と活用、会議の開催時間・方法の工夫、執務室の動線の改善、ICTの活用、専門人材の登用等々、日々の業務の見直しは継続的に必要になります。
―校長会の抱える課題と対策をお願いします。
1つ目は、管理職候補の育成および管理職の資質・能力の向上です。
近年、特に教頭昇任候補者の確保が大きな課題となっています。
各学校では、部長や主任の教諭を中心に、ミドルリーダーの育成に努めていますが、後継者の確保は年を追って厳しい状況になっています。当面は教頭未配置校をつくらないために、管理職での役付再任用や校長公募を活用するなどして、学校経営の安定化を図るよう、引き続き、関係者に働きかけていきます。
中・長期的には学校と行政が一体となって幅広い視点から、現状を詳細に分析し、総合的に効果ある対策を打ち出していく、管理職を発掘するための体制整備を図っていく必要があると考えます。
一方、各学校において教職員の学校経営への参画意識を高めるなど、ミドルリーダーの育成を計画的・継続的に行うとともに、本協会が主催する採用校長や昇任教頭を対象とした事前研修会や各支部・ブロック単位の現職研修を拡充・充実するなど、管理職の資質・能力の一層の向上、管理職間のネットワークの構築を進めていきます。
2つ目は、服務規律の保持の徹底と不祥事の根絶です。
信頼される学校づくりに日々取り組んでいる努力を無駄にし、築き上げた信頼を一瞬で失墜させる一部の教職員による不祥事があとを絶たない状況です。本年度は昨年12月末現在で飲酒運転、わいせつ行為等および体罰で14件の懲戒処分が行われています。
また、所属長として良好な勤務環境づくりに取り組む立場にある管理職がパワーハラスメントで懲戒処分を受ける事案もあり、学校教育に対する道民の信頼を損なう極めて憂慮すべき事態となっています。
本協会では会長の緊急メッセージを発出し、職員一人ひとりが全体の奉仕者として公共の利益のために職務を遂行すべき責務を負っていることや、生徒の手本となるべき立場にあることについて、今一度、所属職員に対して強く訴えかけ、これ以上学校教育に対する信頼を損なうことのないよう、服務規律の保持を徹底し、不祥事の防止に努めるよう各校長に呼びかけたところです。
状況に応じて、コンプライアンス推進委員会を設置し、防止および根絶に向けた具体的な対策について検討したいと考えています。
3つ目は、学校における働き方改革の推進です。
道教委は学校における働き方改革「北海道アクション・プラン」を昨年7月に一部改定し、国の方針に準じ、時間外勤務の時間を1ヵ月で45時間以内、1年間で360時間以内などと目標を定めました。学校ではこれまで、学校閉庁日の設定、部活動の活動方針の策定と公表、勤務時間終了後の留守番電話対応等の取組が行われてきました。
昨年12月には道立学校20校で新しい出退勤管理システムが試行され、2年度内の全校導入に向けて準備を進めていると聞いています。教職員一人ひとりの勤務時間を目視で管理していたものが、ようやく客観的に把握することが可能になります。
一方、「北海道アクション・プラン」に基づくこれまでの取組によって、当初の目的がどの程度達成されているのか効果を検証するなどして、実効ある運用や新たな課題への対応等について道教委との協議をさらに重ねていく必要があると考えています。
―新年度の重点的取組を伺います。
高校教育の大きな変革期にあって、個々の校長の組織マネジメントを中心としたリーダーシップは当然必要ですが、共通する課題を互いに共有し、情報や意見を交換し、意思統一した組織的な対応が課題への対応・解決には欠かせません。
そのようなことから、本協会ではここ数年、「協働」ということを念頭に置いて、課題解決のため道教委の各種事業への協力をはじめ、本協会の調査研究部の活動を中心とした研究・研修に取り組んできました。
新年度の重点的取組については、私の任期が3月末までなので新しい体制のもとで議論し、共有していくことになりますが、つぎのことは欠かせない取組になるものと考えています。
1つ目は、本協会の活動の充実と重点目標の実現です。
本協会は平成30年度に70周年事業を終え、令和元年度はつぎの節目に向けて動き出す最初の年になったことから、活動方針の主題を「北海道の新たな時代を開く高等学校教育の創造」、副題を「新高校学習指導要領が目指す教育を実現する」と修正しました。
重点目標については、教育課題、経営課題、協会運営の3つの視点でそれぞれ4項目設定するとともに、急速な社会の変化や高校教育における喫緊の課題等を踏まえて内容も一部見直しました。本部と支部・ブロック間の情報や意見の交換を一層密にし、本協会としての活動や支部・ブロック内の活動を充実しながら、重点目標の実現に努めていきます。
2つ目は、学校経営力の向上を目指した研修の充実と調査研究活動の推進です。
本協会の調査研究は学校の実践を集約し、分析・考察し、課題解決のための提言を協会として組織的に行ってきた点において全国的に高い評価を得てまいりました。加えて、その提言が単に報告書の中だけにとどまらず、学校や各校長の新たな実践の参考となって、生かされてきたことに大きな価値があります。先人が残してくれたこの財産は“不易”として、今後もしっかり継承してまいります。
一方、時代の変化は急速であり、教育改革は待ったなしで進められ、教育再生実行会議の第11次提言にもあるように、つぎの改革の焦点は高校普通科の教育改革です。この改革に高校普通科がどのように臨むかなどを研究テーマとしながら、いち早く対応の参考になる調査研究を進めるなど、“流行”に遅れることなく、取組の質と意義を一層高めたいと考えています。
みやした・あきら
昭和58年筑波大卒。平成19年滝川高教頭、21年道教委学校安全・健康課主幹、22年健康・体育課主幹、23年苫小牧高専学生課長、25年釧路明輝高校長、27年札幌白陵高校長を経て、29年から札幌北高校長。
昭和34年11月22日生まれ、60歳。釧路市出身。
(関係団体 2020-01-20付)
その他の記事( 関係団体)
釧路で道高校工業クラブ大会 計算技術 札工が団体優勝 個人部門は札工の内山君
【釧路発】道高校工業クラブ連盟(猪股康行会長)は23・24日、釧路工業高校で道高校工業クラブ大会を開いた。全道15校から生徒、教員合わせて約140人が参加。課題研究発表、計算技術競技の2種...(2020-01-28) 全て読む
ウポポイへの修学旅行申込 全国270校 3.4万人 22日現在 ここ数日急増
アイヌ民族文化財団によると、来年度のウポポイ(民族共生象徴空間)への修学旅行の申し込みが22日現在、全国の小・中学校、高校合わせて270校、児童生徒数は約3万4000人になっていることが分...(2020-01-24) 全て読む
北海道版管理職手引 来年度末の作成目指す 必携の知恵袋に 道高校長協会
道高校長協会(宮下聡会長)の学校経営分科会管理運営委員会(小幡圭二委員長)は、『仮称・北海道版管理職の手引』の作成に向けた調査研究を進めている。校長、副校長、教頭の円滑な職務遂行に資するも...(2020-01-23) 全て読む
道アクティブ・ラーニング研究会 協同学習の重要性理解 冬季研 授業づくりの具体も
道アクティブ・ラーニング(協同と創造の授業づくり)研究会(石垣則昭会長)は11日、札幌市内のアスティ45ビルで冬季研修会を開催した。日本協同教育学会(JASCE)認定講師である石垣会長が「...(2020-01-22) 全て読む
【4種校長会長に聞く】 第4回 北海道特別支援学校長会 木村浩紀氏 ICT活用し実効性ある連携
―校長会としての新年展望をお聞かせください。 道特別支援学校長会では「連携」を大切にしたいと考えています。 道総合教育大綱では、輝きつづける北海道を目指し、その先の道を切り拓く北海道...(2020-01-21) 全て読む
【4種校長会長に聞く】 第2回 北海道中学校長会 新沼潔氏 重大な覚悟もち働き方改革
―校長会としての新年展望をお聞かせください。 本年度は新しい組織体制となって2年目となり、定着の年でありました。これから、2月に開催される副会長研修会、専門部研修会、理事研修会をもって本...(2020-01-17) 全て読む
札幌市小学校教頭会が研究大会 職場環境改善へ研鑚 接遇マナーの講演も
札幌市小学校教頭会(関根治彦会長)は15日、ホテルライフォート札幌で全市研究大会を開いた。研究主題「共に生きる心と知を育む社会に開かれた活力ある学校づくり」のもと約200人が参加。3ヵ年計...(2020-01-17) 全て読む
上川管内教育課程編成の手引作成 教科等横断的視点など配慮 11教科の年間指導計画等
【旭川発】上川管内教育課程編成の手引作成委員会(小山田雅春委員長)は、新学習指導要領の全面実施を前に本年度、小学校の国語(書写を含む)、社会、理科など11教科の解説や年間指導計画例などをま...(2020-01-17) 全て読む
【4種校長会長に聞く】 第1回 北海道小学校長会・大石幸志氏 実態伝え教育定数改善訴え
―校長会としての新年の展望をお聞かせください。 小学校教育においては、進行する教育改革への対応、いじめ・不登校問題をはじめとする児童の健全育成への取組など、解決すべき教育課題が山積してい...(2020-01-16) 全て読む
特別支援副校長・教頭会が冬季研 ICT活用の可能性検討 野戸谷会長 選ばれる学校に
道特別支援学校副校長・教頭会(野戸谷睦会長)は10日、ホテルライフォート札幌で令和元年度冬季研究協議会を開いた。全道から会員約70人が参加。研究主題「特別支援学校における安定した学校運営に...(2020-01-16) 全て読む