新春インタビュー 北教組・木下真一中央執行委員長に聞く
(関係団体 2023-01-01付)

◆超勤解消 根本的解決へ国主導の改革を

 ―学校現場の超勤・多忙化の現状と教育条件・勤務条件改善に向けた取組についてお聞かせください。

 この問題は、全ての教育関係者が一丸となって全方位的に取り組まなければならない最重要課題です。北海道においても教員採用試験の倍率低下、すなわち教職を希望する人が著しく減少しており、その結果、教員未配置の問題が多忙化に一層拍車をかけ、子どもたちの学びに影響しています。

 私たちは、2022年度も多忙化の現状を調査しました。学校現場は「新型コロナウイルス感染症」の影響が受けており、感染防止の業務等が行われているという事情はありますが、経年比較という意味で重要な結果を得ることができました。残念ですが、多くの組合員が時間外在校等時間の上限「月45時間、年360時間」を超えている深刻な実態が明らかになりました。

 「休憩時間の業務や休日の部活動が積算されていない」「割振り変更で勤務が8時間を超えた場合は60分の休憩時間が設定され、在校等時間から一律引かれている」などの昨年と同じ問題が聞かれ、学校における勤務時間管理の在り方や信ぴょう性の課題が一向に改善されていない職場が全道に多数あります。

 「上限」を超えた教員の割合については、小学校46%、中学校65%、高校49%、特別支援学校27%となっています。私たちは「持ち帰り業務」も含めて調査を行いましたので、小学校62%、中学校71%、高校51%、特別支援学校41%が「上限」超えという結果になっています。21年度よりも悪化しているのが中学校ということも明らかになりました。

 「過労死レベル」となる月80時間を超えたの割合は、小学校17%(前年度20%)、中学校34%(同21%)、高校13%(同20%)、特別支援学校8%(同4%)となっているだけではなく、100時間を超える熾烈な状況はなんと中学校では20%と昨年10%の倍となって、中学校の実態がとんでもない、異常な状況となっています。

 詳細な考察・検証は今後ですが、21年度調査では新型コロナ感染症の流行による緊急事態宣言のもとにあり、道教委通知によって学校行事と部活動に大きな制限がかけられており、一時的に時間外在校等時間が減少したものと思われます。本年度は緊急事態宣言が発出されず「ウィズコロナ」ということで部活動とその大会等の制限が緩和されたことによって大幅に超勤が増加したと見ています。小学校は「ほぼ横ばい」です。学校現場での業務改善・工夫による取組の限界があるものと思われます。

 ある中学校組合員とこんな話をしました。昨年7月に用件があって私がある中学校に電話したのですが、取り次いでくれたのが知り合いの教員で「その先生は毎日のように午前0時過ぎに帰っています。もう倒れそう」と。後日、本人に直接聞いたところ「コロナによって家庭状況が変わって、その影響を受ける子どもが増えて、不登校となっている。生徒指導担当だが、保護者からは家庭での指導についての悩みの相談が多数あり、連日の保護者対応とその後、深夜まで打ち合わせをしている」というものでした。日々、子どもたちのために責任を持たざるを得ないのが私たちの立場ですが、コロナ感染症による子どもたちの心の問題が深刻なものとなっています。学校組織の中で業務分担など改善の余地が無いのかと思いました。

 厚生労働省によると、月70時間残業の場合、睡眠は5時間を確保できなくなると報告されています。心身が健やかな状態で、子どもたちに向き合えなくなるということです。

 このような過酷な実態があるのですが、道教委「北海道アクションプラン(第2期)」の重点項目に「在校等時間が計測・記録され、公表されるように積極的に取り組む」とされているにも関わらず、50%以上の市町村が公表していない。実は21年度は90%以上も公表していなかったものですから、私たちは改善を求めたのです。今後は全ての市町村で公表し、地域・保護者の方々に学校の実態について理解を得るのが不可欠ではないでしょうか。

 学校現場・教職員からは、授業の連携、「学力向上」のための研修、コミュニティ・スクールの地域連携、「チーム学校」による学校運営などによって「会議の時間が増えた」との声が多くあり、「勤務時間外に授業準備などを行わなければならない状況が一層ひどくなっている」との指摘が多く届いています。私たちは、こうした実態を受けて「学校における働き方改革」を進めるために3つの提言を行おうとしています。

 第一に「教員が担う中核となる本来業務とは何かを定義をすること」によって1人当たりの本来業務の負担を減らすということ。第二に「中核となる本来業務を所定労働時間に収めるために学校種ごとの持ち授業時数の上限を設定すること」で授業以外の本来業務行う時間を生み出すということ。そして、第三はこれらの実現に向け、「教職員定数を増やす法改正を行うこと」「年間標準時数を削減するために学習指導要領を改定すること」「給特法の廃止・見直しを行うこと」「部活動の社会教育への移行をすすめること」が必要であると提言しようと考えています。

 いずれにしても、都道府県・市町村の取組は進んできていますが、その効果は限定的だと思いますので、国が動かなければ抜本的解決はないと思います。引き続き、地域・保護者の皆さんの理解を得る運動、社会的な発信を進めていきたいと考えています。

◆部活動地域移行 十分な予算不可欠

 ―部活動の地域移行の受け止めについてお聞かせください。

 今まで、お話してきた教職員の超勤多忙化解消の問題と部活動の地域移行については一体のものとして考えています。まず、部活動が個性発揮の場であるとか、自己肯定感を持てる場であるとか、教育的意義はあるものと思っています。そして、子どもたちが生き生きと活動するのを目の当たりにして、やりがいを感じている教職員が多数いることも現実です。

 しかし、多忙化の状況は危機的であり、教職員の献身性に頼って部活動を行っていくことをいつまで続けるのかということを考え直さなければ、本来の子どもの学習権をはじめ、子どもたちの利益を最優先する教育、教育課程つまり、授業づくり、自治的な諸活動といったものに悪影響を及ぼし続けることになってしまいます。

 道教委は昨年12月、「北海道部活動の地域移行に関する推進計画(仮称)素案」を公表し、パブリックコメントを求めました。中身をみると、国のガイドラインに準じて「地域部活動」から「地域クラブ活動」とし、社会教育法上の「社会教育」の一環としています。しかし、「兼職兼業」を無理強いしないとしていることへの懸念、受益者負担とさせないための予算確保の心配、指導者の確保など、私たちだけではなく現場の校長や中体連・競技団体の方々も同様ではないでしょうか。

 私たちは、土日も含めた確実な地域移行を求めています。学校現場だけではなく、保護者や子どもたちの声を十分に反映させたものとすることも必要だと思います。

 そして、道も含めて各自治体が国に対して十分な予算確保を求めることや、過熱化を繰り返してはならないというこれまでの経験則を生かし切れるようにすること、中体連や競技団体が大会参加資格などを弾力的に扱えるよう積極的に検討することが、当面の課題であると思っています。

 ―公立高校配置計画および「これからの高校づくりに関する指針改定」についてお聞かせください。

 公立高校配置計画の問題は、今後も少子化が進んでいくことがはっきりしている中で、地域の活気や活力、まちづくりも含めて学校関係者だけではなく、地域全体が心配しています。子どもたちの都市部への流出が進むと地域はどうなってしまうのかということです。

 毎年、発表される配置計画、特に地域連携特例校があるところの保護者や子どもたち・地域は進路選択の範囲がどうなるかで不安を抱えることになります。

 小規模校を「数」のみをもって募集停止とか学級減とはせずに、地元から高校進学が可能となる配置計画や少人数でも運営できる学校形態をいろいろな立場から研究し、それを成果として「指針」に盛り込んでいくというのが私たちの考えです。

◆子ども中心の学校づくり推進

 ―いじめ、不登校の要因と対応、「格差と貧困」是正に向けた取組について伺います。

 20年度の文部科学省調査によると、小・中学校の長期欠席者はおおよそ29万人近く、そのうち不登校は19万6000人と過去最多となっています。札幌市内の中学校のある校長は「不登校生徒が増えた、数も多くて」と言っていました。8年連続して増加している全国的傾向からすると、どこの学校現場も同じ問題を抱えていると思います。

 いじめについては、文科省の20年度認知件数が、およそ52万件と減少する傾向のようですが、「パソコンや携帯電話を使った誹謗・中傷」は増加しているとしています。そして、SNSが原因とされる若者の自死が起こっているなど深刻となっています。

 これは、私たちが一貫して主張していますが、世界では自国第一主義、不寛容な政策や姿勢、協調して物事を進める風潮の後退、といったものが身近で起こり、自己責任で片づけようとする社会のあり方が拡がって子どもたちにも及んでいると考えています。看過できるものではありません。

 競争主義・点数至上主義による「過度に競争的なシステムを含むストレスの多い学校環境」は、国連子どもの権利委員会が子どものいじめ、不登校、自死等の原因である可能性を指摘しています。能力主義や成果主義が過度に学校に持ち込まれることが、子どもの学びに影響を与える深刻な事態となっています。「点数学力向上」を目的とした画一的な枠組みに縛るのではなく、子どもを中心に据えた学校づくりが必要であると考えています。

 いじめが起こった場合の対応も重要ですが、原因を作らない・減らすための環境がどうあるべきかが大切です。特に、超勤多忙化による子どもたちに寄り添う時間の減少、教職員間の意思疎通が不十分になることや、心情にあふれた指導が困難になっていないかなどについて、常に問い続けることに責任があると思っています。

 格差と貧困問題は、新型コロナ感染症によってより顕在化しているのでないでしょうか。子ども7人に1人が相対的貧困にあり、ひとり親家庭の貧困率は48%にもなっているといわれてています。こうした中、「こども家庭庁」が設置されます。家庭への価値観などの押し付けが名称変更に関しての懸念はありますが、施策の縦割りを解消し、子どもの安全と貧困対策、自立支援、児童館や子ども食堂、そして「居場所」づくり、いじめ防止・不登校支援などを一元的に最善の利益のためとしていることが実現し、子どもたちの権利が守られて貧困問題が解決に向かって進んでほしいと思っています。

◆多様な教育が豊かな学び支える

 ―感染症対策と学びの保障、オンライン学習の成果と課題についてお聞かせください。

 「緊急事態宣言」による長期臨時休校の間、子どもや家庭と定期的に連絡を取り合い、学びの機会を様々な手段で確保し、子どもたちの生活や居場所づくり、心のケアなどに教職員は懸命に取り組みました。

 しかし、いまもなお、昨年11月の第8波など収束が見通せない中で、子どもたちへの感染、そして学級閉鎖など、課題は山積しています。教育課程、学びの保障については、多くの教職員は単なる「授業時数の確保」ではなく「学習内容の重点化と行事等の精選」などが重要であり、決してどの学校もどの学級も同じような内容で同じような授業展開を行うことが学びの保障にはつながらないと感じています。こうした子どもたちの実態に基づく教育課程づくりは、感染症が収まらない中にあっても必要だと思います。

 一方で、オンライン学習についてですが、改訂「学習指導要領」によって年間標準時数が増加したことに加え、コロナ感染症による休校措置によってGIGAスクール構想に伴うICTの活用、「一人一台パソコン」が前倒しして整備されました。休校等の場合、子どもたち・家庭との学習・連絡ツールとしては効果的な部分はありましたが、機器の保守・アクセス環境において自治体間で格差があること、個人情報保護にかかわる学習履歴およびビックデータの取扱いに関するガイドラインがないことなどの課題が山積したままとなっています。遠隔授業やオンライン学習はあくまでも一つの教育方法であり、学習活動を補完するものであると考えています。

 民間企業が参入することによって教育自体が企業化・商業化され、一方通行の「情報伝達」とならないよう、これまで積み重ねてきた人と人が対面で触れ合い、共感を育むことによる「ゆたかな学び」が阻害されないよう、教える側にとっての多様性、つまり、多くの手段を教育手法として持ち続けることが必要だと考えています。その一つが「オンライン学習」であるべきです。

 また、プログラミング教育などの取組も新たに求められている状況にあります。しかし、高校では情報化の教員が不足し、プログラミング科目やデジタル教科書を導入しても教えられる教員がいない状態だとも聞きます。小・中学校の教員からもオンライン学習も含めてもっと研修する時間、事前の余裕がほしかったとの声を多く聞きます。

 新しい技術に疎い教員たちが「時代遅れ」とバッシングされるほどにデジタル教育が輝くようでは本末転倒です。

 ―2023年度に向けた北教組運動のあり方についてお聞かせください。

 私たちの運動がどうあるべきかについては、多くの困難・課題があったとしても、一歩でも前に進める運動が必要だと思っています。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちを今まで以上に多忙にしています。こうした、普通ではない状況においても、全ての子どもたち、全ての教職員のことを考えて、教育、そしてそれを取り巻く環境をよくしていくことが私たちの役割だと思っています。

 私たちは北教組方針のもと結集していますが、考え方が違っている人たちが数多くいることも理解していますし、それを押し付けようとは考えていません。しかし、私たちの活動内容を知ってほしい、理解してほしいという気持ちはあります。以前のように、対立のための闘争という運動の構築では組合に結集しにくい状況にあります。

 ただ、批判的に施策を検証して必要なことは様々な運動として具体化していかなければならないのは当然です。全教職員の1月賃金に、「差額」が加算され支給されていたはずです。これは、組合員の力を合わせて、交渉によって決定したことです。そんな所にも組合が必要だということを管理職や新採用の方々にも再認識してほしい。

 そして、様々な困難の前に教職員の自己犠牲や献身性で教育活動は維持できていることに、気づいていても放置している場合については積極的に毅然として指摘し、改善を求めていく、これが私たちの本質ではないかと思います。

 北教組は子どもたちの輝く未来のため、教育をさらに真剣に考え、一層力を合わせて2023年度の運動を進めていきます。今後とも、道内の教育関係者の皆様にご理解・協力を申し上げます。よろしくお願いいたします。

(関係団体 2023-01-01付)

その他の記事( 関係団体)

第55回道学校図書館研修講座 自主性、自立性担保を 元藤女子大・渡邊氏が講演

学校図書館研修講座  道学校図書館協会(佐藤正行会長)は5日から3日間、札幌市内のかでる2・7で第55回北海道学校図書館研修講座を開催した=写真=。集合形式による開催は3年ぶりで、全道の会員約80人が参加。元藤...

(2023-01-12)  全て読む

道高校長協会が後期研究協議会等 壁を乗り越える気概を 2日間にわたり資質向上へ研鑚

高校長協会後期研究協議会  道高校長協会(林正憲会長)は10日から2日間、ホテルライフォート札幌で4年度後期研究協議会・全国高校長協会北海道ブロック研究協議会を開いた。全道から278人が参加。林会長はことしの干支にち...

(2023-01-12)  全て読む

道特長が冬季研究協議会 地域の特別支援充実を 小・中への支援ポイントに

道特長冬季研究協議会  道特別支援学校長会(友善学会長)は5日から2日間、札幌市内のかでる2・7で冬季研究協議会を開いた。全道の会員が参集し研鑚。開会式で友善会長は「小・中学校等への支援の在り方や、その専門性の向...

(2023-01-10)  全て読む

道視研 教育研究大会札幌大会開催 アイデア実現する会に 地域でセンター的役割を

道視研研究大会(開会式)  道視覚障害教育研究会(道視研、佐古勝利会長)は、昨年11月中旬、2日間にわたり札幌視覚支援学校で4年度道視覚障害教育研究大会を開いた。佐古会長は開会式で「日々の教育活動に真に役立つ“新たな...

(2023-01-06)  全て読む

道公立学校事務長会 研究協議会 業務量増には人員増を 要綱による職務の見直し

道公立学校事務長研究協議会  道公立学校事務長会(岩間淳会長)はこのほど、ホテルライフォート札幌で調査研究推進委員研究協議会を開いた。道教委が求めた「要綱」に基づく職務内容の見直しについて協議。「通常業務でいっぱいいっ...

(2023-01-06)  全て読む

道小 第4回理事研修会 勤務環境改善へ注視 紺野会長が国の動向解説

 道小学校長会(紺野高裕会長)は16日、第4回理事研修会をオンラインで開催した。紺野会長は全国連合小学校長会第8回常任理事会(9日)における大字弘一郎会長の報告を踏まえ、教員人材の確保や生徒...

(2022-12-27)  全て読む

道私教協 第33回定期大会 新委員長に石井氏選出 私学助成制度拡充など要求

 道私立学校教職員組合協議会(道私教協)は、10日に開いた第33回定期大会で、2023年度運動方針を決定した。具体的な展開には「私学助成制度の拡充」「30人学級実現」など5項目を掲げ、労働時...

(2022-12-27)  全て読む

子主体の問題解決探る 北理研 旭川で研究大会

北理研研究大会旭川大会①  【旭川発】道小学校理科研究会(北理研、紺野高裕会長)は11月上旬、ハイブリッド形式で第69回道小学校理科教育研究大会旭川大会を開いた=写真上=。ホスト会場は上川教育研修センター。全道研究テ...

(2022-12-26)  全て読む

NTTが教育ICTフォーラム 喜茂別小 木村校長ら講演 端末の家庭利用など

 NTT主催、道教委等共催による教育ICTフォーラム2022が16日にオンラインで開催された。喜茂別町立喜茂別小学校の木村明彦校長ら道内外の学校関係者がICTを活用した実践事例を発表。教育現...

(2022-12-21)  全て読む

教育振興会と退職校長会が教育会議 “地域で”育てる意識を ICTの地域間格差が課題

北海道教育会議  道教育振興会(濱田美樹会長)と道退職校長会(黒坂由紀子会長)は9日、ホテルライフォート札幌で第21回北海道教育会議を開催した。全道の校長、教頭、PTAなどオンラインを合わせ約100人が参加...

(2022-12-20)  全て読む