教員制度改革や研修高度化を 永岡文科大臣 年頭所感 
(国 2023-01-11付)

 永岡桂子文部科学大臣による5年年頭所感の概要はつぎのとおり(6日付1面既報)。

【はじめに】

 新型コロナ感染症の影響が長期にわたる中、困難な状況下での活動に尽力する全ての方々にあらためて敬意を表します。文部科学省が担う教育、科学技術、スポーツ、文化はこれからの未来を切り拓くいずれも重要な分野です。これらの歩みを止めないという強い決意で引き続き様々な取組を進めてまいります。

【初等中等教育】

 いつの時代も教育は国家、社会の礎であり、発展の原動力です。新しい資本主義の柱の一つである人への投資を強化し、子どもたちが自ら個性を磨き、創造性を伸ばし、国際社会で活躍できる心豊かな国民に成長するよう教育振興、教育投資の充実に努めます。

 全ての子どもたちの可能性を最大限に引き出す「令和の日本型学校教育」実現のためには、同一年齢・同一内容の学習を前提とした教育の在り方に過度にとらわれず、新学習指導要領のもとでの個別最適な学びと協働的な学びとの一体的な充実が不可欠です。

 質の高い教育を実現するため、教職員が安心して本務に集中できる環境づくりや中央教育審議会答申を踏まえた教師の養成・採用・研修等の改革に全力で取り組みます。小学校35人学級の計画的整備や、高学年における教科担任制の推進、多様な支援スタッフの充実によって指導体制の一層の整備を図り、校務DXの加速を含め、学校における働き方改革をさらに推進します。

 4年度実施の勤務実態調査の結果等を踏まえ、給特法等の法制的な枠組を含めた教師等の処遇の在り方を検討します。特別免許状の積極的な活用等を促進し多様な専門性を持つ社会人が教職に就きやすい環境整備も進めます。

 教育公務員特例法の改正を踏まえた新たな教師の学びを実現する研修の高度化を進めます。また、GIGAスクール構想を力強く進めるため、運営支援センターの機能強化や効果的な実践例の創出・展開、教育委員会・学校への積極的な支援によって1人1台端末活用の「日常化」を進めます。デジタル教科書については6年度以降を見据え英語をはじめとして全ての小・中学校等を対象に提供し、学びの充実に向け活用を進めてまいります。

 普通科改革等による文理横断・探究的な学び、産業教育の充実、通信制高校の質保証等の高校改革を推進します。初等中等教育から高等教育までの理数系教育を一層充実するとともに女子高校生の理系選択者の増加に向けて取り組みます。

 幼児教育の質の向上も重要です。全ての子どもに学びや生活の基盤を育むため、各地域における幼保小接続期のカリキュラム開発・実施等を促進します。

 痛ましい通園バスの事故が二度と起こらないよう関係省庁と連携し、送迎バスの安全装置の義務化を含む緊急対応策と支援策を実施するとともに通学路を含む学校安全も推進します。児童生徒等に対する性犯罪・性暴力の根絶に向け生命(いのち)の安全教育の取組を進めるとともに、教育職員性暴力等防止法を踏まえた取組を徹底してまいります。

 子どもたちに豊かな学びを保障するため、社会が一体となって教育活動を支えることが必要です。学校運営協議会制度の全校導入を進めます。休日の部活動について、地域の様々な実情に合わせながら、地域連携や地域クラブ活動への移行に取り組みます。

 学校施設は、学びの場であり、災害時には避難所ともなることから、教育環境の向上と老朽化対策とを一体的に進めます。

教育無償化や負担軽減推進

【高等教育】

 ソサエティ5・0に向けた人材育成やイノベーション創出の基盤として、大学や高等専門学校等への期待は高まっています。教育、研究、ガバナンスの一体的改革を進め、教育研究基盤の強化を図ります。

 デジタル、グリーンなどの成長分野の人材の育成は喫緊の課題であり、意欲ある大学等が成長分野への学部転換等の改革に踏み切れるよう支援します。産業界や諸外国から高い評価を受ける高等専門学校について機能の高度化、海外展開と国際化、地域ニーズを踏まえた取組を進めます。

 社会人の学び直しを充実させ、新たなチャレンジができる社会を構築します。

 わが国の公教育を支える私立学校が今後も持続的に発展するため、社会の要請に応えつつ、学校法人が主体性をもって改革を進められるよう、制度改正に取り組みます。これらの実現に向け、国立大学法人等の運営費交付金や施設整備費補助金、私学助成など基盤的経費を安定的に確保してまいります。

 教育未来創造会議の第1次提言を着実に実行するとともにコロナ後のグローバル社会を見据えた人への投資の具体化に向け、新たな外国人留学生受入れと日本人学生等の海外派遣の在り方など今春の第2次提言取りまとめに向けた議論を進めます。

 様々な課題を抱える子どもたちを誰一人取り残さず、可能性を最大限に引き出すことは重要です。子どもを巡る、複雑化し、多岐にわたる課題に対応する司令塔としてのこども家庭庁との連携も重要です。

 障がいのある児童生徒、日本語指導が必要な児童生徒、貧困、不登校、虐待等の困難を抱える児童生徒、特異な才能のある児童生徒、へき地の児童生徒等については、不登校特例校および夜間中学の全都道府県等での設置、オンライン指導・取り出し指導促進や実証研究の実施といった支援の充実を図ります。

 医療的ケアが必要な子どもや健康課題を抱える子どもに対応できるよう、医療的ケア児への支援の充実や養護教諭等の支援体制の強化を進めます。昨年成立した法律に基づき、在外教育施設における教育をさらに振興します。

 痛ましいいじめ事案が続き、学校や教育委員会等の対応が不十分と指摘される事例も見られます。これを重く受け止め、子どもたちが深く傷つくことがないよう現場の状況も踏まえ法律や基本方針等の理解の徹底を図るとともに、早期の組織的対応の徹底・関係機関との連携推進等を教育委員会等に強力に指導します。

 経済事情によらず誰もが質の高い教育を受けられることは重要です。幼児期から高等教育まで切れ目なく、教育の無償化や負担軽減を着実に実施します。特に学部段階の給付型奨学金と授業料減免の中間層への拡大やライフイベントに応じた柔軟な返還・納付、出世払いの仕組みを創設します。物価の高騰を踏まえ、各自治体における学校給食費等の保護者負担軽減を促進します。

 昨年、次期教育振興基本計画の策定について中央教育審議会に諮問しました。国内状況や国際環境の変化を踏まえた教育政策の方針についてしっかりと検討を進めます。

 5月に富山県・石川県で共催されるG7教育大臣会合の準備を着実に進めてまいります。

【科学技術・イノベーション】

 科学技術立国は岸田内閣の成長戦略の柱です。成長の原動力である科学技術・イノベーションへの投資を力強く実行します。

 近年、相対的に低下するわが国の研究力の強化は喫緊の課題です。10兆円規模の大学ファンドによる6年度以降の支援開始に向け、国際卓越研究大学法に基づき、世界最高水準の研究大学の実現に向けた取組を着実に進めます。併せて、地域の中核大学や特定分野に強みを持つ研究大学の強化等を図ります。

 また、若手研究者への支援を強化します。博士後期課程学生への経済的支援の充実を図るとともに、博士号取得者が幅広く活躍できるキャリアパスを整備します。さらに、持続的なイノベーションの創出には学術研究・基礎研究の充実が重要です。科学研究費助成事業、戦略的創造研究推進事業、創発的研究支援事業や世界トップレベル研究拠点プログラム等の充実、国際共同研究の抜本的強化等によって研究者の挑戦を支援します。

 研究の成果を社会に実装するため産学官による共創の場の形成等を進め、大学・高専発スタートアップを次々と創出する環境の整備や起業家教育の充実を図ります。

 研究施設・設備やデータの活用も重要です。「Nano Terasu(ナノテラス)」など、世界最高水準の大型研究施設の整備・共用、次世代計算基盤の調査研究を進めるとともに、量子コンピュータ・スーパーコンピュータを組み合わせた計算基盤の開発等を通じて研究DXを高度化・推進してまいります。

 2050年カーボンニュートラルの達成に向け半導体や蓄電池等の革新的な環境・エネルギーに関する研究開発、ITER計画等の核融合研究、高温ガス炉に係る研究開発・高速実験炉「常陽」の早期運転再開を含めた高速炉開発等の次世代革新炉に係る研究開発に着実に取り組みます。

 AI等の情報科学技術、量子、マテリアル、再生・細胞医療・遺伝子治療といったライフサイエンスなど、重要技術の研究開発を戦略的に進めます。

 感染症危機に備え、国産ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成等を進めます。

 宇宙分野は、フロンティアとしてのみならず、新たな産業創出や安全保障の観点からも重要です。イプシロンロケット6号機の打上げ結果の原因究明と対策を早急に講じるとともに、H3ロケット初号機打上げに向けて取り組みます。また、日本人初の月面着陸を目指すアルテミス計画や、宇宙科学・探査、基幹ロケットの開発、革新的将来宇宙輸送システムの研究開発等を進めます。

【スポーツ】

 スポーツには、国民一人ひとりの人生を豊かにし、社会を変え、未来を創り上げる力があります。昨年開催された北京冬季オリンピック・パラリンピック競技大会では多くの日本人選手が活躍し、サッカーW杯でも強豪国を相手にベスト16まで勝ち進むなど、国民に勇気と感動を与えてくれました。

 東京オリンピック・パラリンピックのスポーツレガシーの継承・発展に向け、第三期スポーツ基本計画を推進し、スポーツそのものの価値や社会活性化等への寄与といった価値を更に高め、「スポーツ立国」の実現を目指します。

 併せて国際競技大会等の運営の透明性・公正性の確保、スポーツ団体のガバナンスや経営力の強化、ドーピング防止活動等を通じたスポーツの誠実性・健全性・高潔性の確保等を進めるとともに、デジタル技術も活用し、アスリートの国際競技力向上やセカンドキャリア形成支援、学校体育の充実や地域における持続可能で多様な子どもたちのスポーツ環境整備、国民のスポーツ実施率向上を図ります。

【文化芸術】

 文化芸術は、人々の創造性を育み、生活を豊かにするとともに、地方創生の実現など無限の可能性を秘めています。このため、ウィズコロナでの文化芸術活動の再開・継続・発展を支援するとともに、子どもたちの文化芸術体験の機会を充実します。

 日本各地で文化の振興を通じた経済・社会の活性化に取り組みます。昨年成立した改正博物館法を踏まえ、博物館機能強化を推進します。また、日本語教育機関の水準の維持向上等を図るための法案およびDXの進展に対応した権利保護と利用円滑化のための著作権制度の充実のための法案の提出に向けて検討を進めます。

 「日本博2・0」を推進するとともに、文化芸術のグローバル展開、国立劇場の再整備などの文化施設の機能強化、「日本遺産」等の地域の文化資源の磨き上げ、地域一体となった文化観光や食文化の振興を進めます。「文化財の匠プロジェクト」の推進に取り組みます。第2期文化芸術推進基本計画の策定を進め、幅広い文化芸術による国づくりを推進し、日本文化の魅力を国内外へ発信します。

 佐渡島の金山については、ユネスコ世界文化遺産登録に向け推薦書正式版を提出し、新潟県、佐渡市および関係省庁と一丸となって取り組んでまいります。

 伝統的酒造りについても、ユネスコ無形文化遺産登録に向け、関係省庁と連携し、着実に取り組んでまいります。

 本年3月の文化庁の京都移転に向け、着実に準備を進めます。

 旧統一教会に関しては、宗教法人審議会の御了解をいただいた上で、報告徴収・質問権を行使し、まずは具体的な証拠や資料を伴う客観的な事実の把握に努めてきたところです。今後も引き続き、関係省庁と連携して対応を進めます。

【終わりに】

 文部科学行政は、「人」を育み、「人」の英知や創造力を最大限引き出すことによって、国民の皆さまの人生を幸福で豊かなものにし、わが国の成長の源泉ともなるものであり、いずれも極めて重要です。私は、一女性そして母親の経験を生かした国民目線を大切にしながら、できる限り現場に足を運び、その声にしっかりと耳を傾け、様々な課題に対して取り組んでまいります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(国 2023-01-11付)

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