札幌大 若年層手話通訳者養成モデル 共生社会実現の契機に 教育の専門性向上など期待も(学校 2024-06-10付)
札幌大、手話通訳者モデル事業開始
札幌大学(大森義行学長)は本年度、若年層を対象とした手話通訳者養成モデル事業に取り組んでいる。共生社会の実現が求められる中、障がいのある人々の生活や福祉制度への理解深化は喫緊の課題だ。関係者は、手話への関心の高まりを機に、教育現場における専門性向上や、社会生活における困り感解消の一助になることを期待する。
「手話は物の形や動き、漢字の形に由来する」「“あなたは?”と問う時は相手を指さすが、失礼だと思えば手のひらを差し出して」―。
5月中旬の土曜日。札幌大の講義室に集まった学生約20人は、講師の指導を受けながら「私の名前は○○です」「あなたの名前は?」など、あいさつの方法を学んだ。
本年度、札幌大が受託した厚生労働省の「若年層手話通訳者養成モデル事業」。手話による日常会話を習得し、聴覚障がいのある人の生活や福祉制度への理解を深めることが目的。11月までに13講座を開き、全国手話検定試験2級合格を目指す。
道内で初めて開かれた事業。札幌大の小嶋義勝教授が、前年度の道障害者施策推進審議会意思疎通支援部会に委員として参加したことがきっかけだ。事業実施の背景には、手話通訳者の高齢化によるニーズへの対応の難しさがある。
札幌聴覚障害者協会によると、わが国の手話講習は1970年代に盛んに行われたが、近年は若年層の受講者が集まらない状況にあるという。渋谷雄幸理事長は、障害者差別解消法の改正によって事業者の合理的配慮提供が義務化された一方で「制度が整っても、人材が不足していることは大きな課題」と嘆く。大学と連携して講座を開くことで「若い世代に手話への関心が高まれば」と期待する。
モデル事業には、特別支援学校での教職を目指す学生も多数参加。札幌大スポーツ文化専攻の佐藤真央さん(2年)は、手話を学ぶことで「障がいのある児童生徒の気持ちを理解することにつながると考えた。手話だけではなく、表情で伝えることの大切さを知った」と目を輝かせた。
教職課程を設置する道内大学では、聾免許を取得できる学校はない。聾免許を取得するには、道外の大学で学ぶか、通信教育で免許を取得するしか方法がないのが実情だ。
小嶋教授は、聾免許取得に関する講座開設の難しさに理解を示しつつ「教科指導力を身に付け、コミュニケーションツールである手話を身に付けることで、聾教育は維持できる」と期待。認定講習で免許を取得できる現行制度を活用しながら「人材育成に努めることが求められている」と考える。
道特別支援学校長会の四木定宏会長は「聴覚障がいのある人たちへの理解が深まる良い機会」と評価。専門性向上のために学ぶ機会を確保する観点からも「学生だけではなく、より多くの人たちに関心を持ってもらえれば」と期待する。
講座は、次年度以降も継続する方針。今後、札幌大と聴覚障害者協会などと連携しながら、北海道に根付いた若手人材育成スタイルを確立したい考え。小嶋教授は「医療従事者からも受講希望があった」と明かす。共生社会実現に向けて「障がいによる困り感を、社会がより深く知る必要がある。手話を使える人が、教育現場でも社会生活においても増えていかなければならない」と力を込める。
(学校 2024-06-10付)
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