札幌市・山根教育長 就任インタビュー 管理職研修充実、中核教員育成へ 課題解決へ組織的対応を
(札幌市 2024-06-27付)

山根教育長インタビュー
山根教育長

 札幌市教委は、全ての教育活動を貫く重点に「子どもの声を聴く」を掲げ、課題探究的な学習、自治的な活動などを推進している。本紙では、5月25日付で就任した山根直樹教育長に、市における教育課題や今後の展望などを聞いた。いじめ防止をはじめ組織で対応すべき課題が山積する中、管理職のマネジメント能力を高める研修の充実、中核となる教員の育成の重要性を強調。さらに市教委として「学校が外部との信頼関係を強化していくことができるような下支えをしていきたい」との考えを示した。

―就任の抱負

 現在、少子化に伴う人口減少、グローバル化の進展、さらにはAI等のデジタル技術の飛躍的な発達など、先行きを見通すことが困難な時代にある。

 このような時代においては、これからの未来を担う札幌の子どもたちが自他の良さや可能性を認め合いながらたくましく成長し、自分らしく将来を切り拓いていけるようにするとともに、様々な困りを抱える子どもたちはもちろん、誰もが安心して学び、自立に向かうことができるようにすることが重要である。

 そのために、子どもが自ら疑問や課題をもち主体的に解決する課題探究的な学習や子どもが自分たちの考えを持ってより良い学校・地域づくりに向けて取り組む自治的な活動の推進を一層大切にしながら、ICTの活用についても、一つ一つの教育施策において効果的に取り入れていく。

 また、子どもたちが自らの力で明るい未来を創造できるよう、常に子どもたちの声を聴き、子どもたちの声を生かした教育施策の推進に尽力していきたい。

―市の教育が目指す人間像「自立した札幌人」について

 第2期市教育振興基本計画に掲げた目指す人間像「自立した札幌人」を実現するため「一人一人が自他のよさや可能性を認め合える学びの推進」「学校・家庭・地域総ぐるみで育み、生涯にわたり学び続ける機会の拡充」「社会の変化に対応した教育環境の充実」の三つの基本的方向性に沿って教育施策を展開していく。

 子どもたちを取り巻く環境が複雑化、多様化している中、全ての子が自らの良さや可能性を発揮するためには、園・学校全体で「学習活動づくり」「人間関係づくり」「環境づくり」を相互に関連させて取り組み、子ども一人ひとりが「自分が大切にされている」と実感できるようにしていくことが大切である。

 園・学校には「みんな違う」を原点として多様性を認め合い「本物の経験」を通して「自由」と「共生」を学ぶとともに、責任ある行動をとる力を身に付ける場として、子どもの相互承認の感度を醸成し、子ども一人ひとりの「自立」を支えていただきたい。

 また、こうした思いを家庭、地域とも共有し、子どもに関わる全ての人が、それぞれの子どもに合わせた適切な関わりができるよう取り組んでいただきたい。

―全ての教育活動を貫く重点「子どもの声を聴く」について

 本市の子どもは、他者を大切に思う気持ちなどに比べ、自分を認め、肯定する気持ちが相対的に低い傾向が見られ、自分の良さや可能性に気付くことに課題がある。このため、4年度に「人間尊重の教育」を市学校教育の基盤に据えて、子ども一人ひとりが「自分が大切にされている」と実感できる学校づくりを推進してきた。

 その取組の深化を図るために、本年度は「子どもの声を聴く」ことを全ての教育活動を貫く重点として位置付けた。子どもの困りや悩みに寄り添い、思いや願いの実現に応えていくという姿勢を、全ての園・学校で大切にして学校教育を進めていく。

 本市はこれまで「学ぶ力~自ら課題を見付け、自ら学び、自ら問題を解決する資質・能力」の育成を推進してきたが、子どもたちが持続可能な社会の創り手なるために「学ぶ力」は極めて重要な力であることから、「さっぽろっ子に育みたい共通の資質・能力」として、あらためてその位置付けを明確にした。「学ぶ力」の育成に当たっては、子どもの主体性を大切にした多様な学びや、他者との協働による学びの中で、自他のよさや可能性を認め合う感度を高めていくことが重要である。

 これからは教科等の授業における「課題探究的な学習」と、学級活動や学校行事等における「自治的な活動」を2本柱とし、あらゆる教育活動を通して「学ぶ力」を育成していく。

 また、子どもが多様な人と関わりながら自らの思いや願いを実現していくことができるよう、学校が家庭や地域との連携を深めるとともに、子どもの声を学校運営に反映する「札幌らしいコミュニティ・スクール」の導入を一層進め、地域全体で子どもの学びや成長を支える仕組みを整えていく。

―市の教育課題について

▼困りを抱えた子どもへの支援

 本市では、3年10月に発生したいじめの重大事態を受け、このような悲しい出来事を二度と起こしてはならないと決意を新たにしている。

 再発防止に向けた取組の一つとして、4月に「市いじめの防止等のための基本的な方針」を改定した。新しい方針では、法に基づく学校いじめ対策組織の構成員にスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの専門家を必須とするほか、いじめの防止、発見、対処を組織として行うことを明確にしている。

 また、ことしから全学校の1人1台端末に「心の健康観察アプリ」を導入し、子どもの困りを早期に把握する取組を強化している。

 市が示す「学校・家庭・地域総ぐるみで、いじめは“しない・させない・許さない”を徹底する」といういじめ防止のビジョンを念頭に置き、新たな方針に掲げたこれらの取組が各学校に定着するよう、いじめ防止対策に全力で取り組んでいく。

 また、不登校については、本市においても全国同様に増加傾向が続いていることから、校内における不登校支援体制の強化とともに、学校で学ぶことが難しい子どもに対して、本人が学びたいと思った時に学べる環境を整備していくことが重要であると考えている。

 このため、サテライトを含め市内全区に教育支援センターを設置するとともに、オンラインを活用した支援を試行実施しているところであり、今後も子どもに寄り添った支援の充実に努めていく。

▼学校の働き方改革、教員育成

 教員の長時間勤務が全国的に大きな課題となっており、本市においても、これまで、業務の見直し、ICTを活用した事務の効率化、表彰事業による意識改革や好事例の発信など、働き方改革の取組を進めてきた。

 これによって、教員一人当たりの時間外勤務は減少傾向にあるが、依然として長時間勤務にある教員が一定数おり、業務効率の低下、教員の健康被害や成り手不足など、様々なリスクを生み出す懸念があると認識している。

 本年度からは、勤怠管理等が容易となる新たな出退勤管理システムや採点業務の効率化を図るべくデジタル採点システムを学校現場に導入し、今後も引き続き、学校における働き方改革の様々な取組を進めていきたい。

 また、子どもを取り巻く課題は多様化していることから、教員が子ども一人ひとりの良さや可能性を引き出す実践的な指導力を磨き続けることが重要。このため、教員育成指標に基づき、初任者研修や管理職研修など系統性のある研修を実施してきた。

 本年度からは、研修受講履歴記録システムを導入し、教員が自身の研修履歴を振り返り、自らの強みや課題を明らかにした上で、主体的に研修を選択し、切れ目なく学び続けていくことができる研修体制を整備している。

 今後も、教員が強い使命感を持ち、専門性の向上に主体的に取り組むとともに、地域等と連携しながら、子どもの学びや成長を支えていけるよう、さらなる資質の向上に努めていきたい。

▼体力・運動能力の低下

 第2期市教育アクションプラン(前期)の5年間で取り組んでいく重点項目の一つに「生涯にわたる健やかな体の育成」を掲げている。本市の子どもの体力・運動能力については、新型コロナウイルス感染症の影響によって大きく落ち込んでおり、低下した体力・運動能力をいかに取り戻して、継続的な改善につなげていくかが課題である。

 今後は、運動の楽しさに触れられる「課題探究的な学習」の充実を図るとともに、子ども自らが健康の大切さに目を向け、健康な生活を送る基礎を培う健康教育を合わせて推進することで、生涯を通じて心身共に健康で安全な生活と豊かなスポーツライフの実現につなげていきたい。

―今後取り組みたいこと

 いじめ防止をはじめとする昨今の教育課題を踏まえると、学校が組織として対応しなければならないことが増えてきていることから、教育委員会としては、学校の組織力の向上を図るため、管理職のマネジメント能力を高めていく研修の充実と、中核となる教員の育成が必要だと考えている。

 こうした様々な取組を進めていく中で、いじめ防止基本方針で掲げる、法に基づく学校いじめ対策組織に専門家等を加えて定期的に開催することや、いじめの未然防止・早期発見・対処を組織として確実に行うなどの取組を、学校の中で定着させていくことに尽力していきたい。

 また、学校の業務は、児童生徒や保護者、地域等との信頼関係の上に成り立っているものであることから、教育委員会として、学校が外部との信頼関係を強化していくことができるような下支えをしていきたい。

―モットーや仕事をする上で大切にしていること

 何事も風通しよく、オープンにということを常日頃意識している。仕事の悩みや課題は、特定の個人や小さな組織単位で抱えたり悩んだりせず、情報は早く共有していき、同じような失敗を繰り返さないよう、組織としてしっかり取り組んでいくことが大切だという考え方で、これまで仕事に当たってきた。

 繰り返しになるが、教育委員会の仕事、あるいは学校教育は、周囲の方々の信頼の上に成り立っているもの。市の他部局や、外部の関係機関も含め、積極的に連携、協働していくとともに、自分たちの仕事に誇りを持って、堂々と外に向かって発信できるような仕事をしていきたい。

山根 直樹 氏

やまね・なおき

 昭和62年北大農学部卒。平成26年市教委教育制度担当部長、28年同生涯学習部長、30年教育次長、31年子ども未来局長、令和4年総務局長。

 昭和39年12月25日生まれ、59歳。札幌市出身。

(札幌市 2024-06-27付)

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