道教育大附属釧路小の本年度研究概要(学校 2016-08-04付)
道教育大学附属釧路小学校の本年度研究概要はつぎのとおり。
▼研究主題について
附属釧路小学校・中学校では、現在五年計画で小中連携による研究を進めている。本年度はその三年次目に当たる。私たちが共有した研究主題は、「自ら学ぶ意味を創造できる児童生徒の育成」である。この「自ら学ぶ意味を創造できる」とは、内発的動機付けのように、学ぶことそのものが目的で自律的である、ある意味理想的な状態はもちろん、統合的調整や、同一化的調整のように、学ぶことが他の目的に対する手段であっても、自律的になされている状態であれば、肯定的にとらえるべきだと考えている。
このように、学ぶことが自律的になされている姿を学ぶ意味を創造しているとみなすこととした。
▼自律性について
つぎに、「自律」についてである。自律とは「やるべきこと」と「やりたいこと」の葛藤を現実原則にしたがって調整・統合することであるととらえている。一方、「やるべきこと」だけに縛られたり、「やりたいこと」だけに流されたりしているのは、「他律」であると考える。その「自律的に学んでいる姿」を目指すために、自律性を各教科等の学びの中で高めていくことが必要になる。
そこで、この「学ぶ意味を創造する子どもの姿」の実現のために、キーとなる資質・能力として、「自律性」を位置付けた。この「自律性」とは、「何をどのようにすべきかについて自己決定すること」を意味しており、第二期教育振興基本計画の三つのキーワードとの関連から考えてみても、自立した個が他者と協働することによって、創造にたどり着くために必要な「能力」とし、合致していると判断している。
研究主題「自ら学ぶ意味を創造できる児童生徒の育成」とのかかわりから考えてみると、「自律性」を高めていくことによって、「学ぶ意味を創造する姿」につながっていくととらえている。
では、義務教育九年間の中で「自律性」をどのようにとらえ、高めていくことができるのか、そのイメージをつぎのように整理することとした。
小学校低学年では「やれること」を増やしていき、中学年ではその土台の上に自分の「やれること」を自覚できるようにし、高学年・中学校では自分が「やるべきこと」に納得し、その中から「やりたいこと」を見つけられるようにしていきたいと考えている。
自律性をこのようにとらえ、九年間の中で系統立てて育んでいくこととした。
こうしたイメージのように、当然それぞれの発達段階において、最終的に目指す子どもの姿が異なってくる。また、それらの姿を引き出すために、有効であろう手立ても異なってくることが考えられる。
つまり、それぞれの段階で目指す子どもの姿と、有効である手立てを明らかにしていくためには、どこか一学年での実践・検証だけでは当然不十分となり、本研究においては「各自律性の段階」での実践、検証が必要となってくる。
そこで五年計画の二年次目と三年次目(本年度)は、小・中学校が、各教科担当者間で設定した「自律性のイメージ」のもと、それぞれの子どもの実態を加味しながら研究を進め、それら三年次目までに得ることができた成果を「九年間の系統」として整理し、四年次目に合同で発信していくという推進計画とすることとした。
▼小学校過去二年間の取組について
ここからは、研究主題のもと、小学校として過去二年間の取組の経過について説明する。
まず、一年次目の研究からみえてきた成果と課題についてである。一年次目の研究では、自律性を育んでいくための手立ての視点として、①「やれること」「やるべきこと」「やりたいこと」の調整を促すための工夫②「言語化」③「きょうどう」―の三つを設定した。はじめは、この三つが独立し並列に存在するものととらえていたが、研究を進めていく中で、「やれること」「やるべきこと」「やりたいこと」の調整を促すための工夫という視点の中に、言語化も「きょうどう」も存在しうるものであるということが明らかになってきた。
つぎに、二年次目の取組についてである。子どもが「学ぶ意味を創造する」=自律的に学んだ姿に変容していくためには、単元の序盤においてもつことができた興味を維持したり、単元の終盤において学習に含まれている価値を自覚したりすることによって、「学んだよさ」を子ども自身が実感することが必要であると考えた。
そうすることによって、子どもは「自分ができるようになったこと」、「自分の成長を実感」し、「つぎの学習への意欲、動機付けの向上」つまり自律的に学んでいく姿へとつながっていくと考えた。
そこで、私たちが着目したのが「興味発達の四段階モデル」というものである。これは「興味研究」という分野の中で、学習において興味がどのような役割を果たし動機付け機能を有しているのかを整理したものである。
この四つの段階は、外発的な色合いの濃い「状況的興味」をその学習の中での本質に迫る「個人的興味」へ、「個人的興味の出現」の中で獲得した気づき・知識・技能を生かした「発達した個人的興味」へと質的に高めていくことが新たな学習への動機付けを高めていくこと、つまり、自律性を高めていくことにつながっていくことを意味しているととらえることができる。
昨年度の研究会、国語科六年「物語の世界を想像して書こう」の学習を例に、手立ての具体を説明していく。
はじめに、学芸会で演じる総合劇が「ファンタジー作品であること」「台本を自分たちでつくり上げていくこと」を提示することで、学習そのものに興味をもたせ、そうなった段階で台本作成までの見通しを提示することで、作品を読み進めていく必要性に納得させる。つまり、興味を維持させていき、読み進めていく中で教師が読みの視点を焦点化するかかわりを行っていくことによって、その学習に含まれている本当の意味での学習課題を自覚し、作品の魅力に気づくことができる。その気づきをもとに、ほかの本や文章を読む機会を設定することで「言葉の価値に気づく」姿が見られるようになった、という具合である。
他教科においても同様に、目指す姿と手立ての関係性に一定の手応えを得ることができたことから、研究において必要な他の自律性の段階での実践と検証を二年次目一年間をかけて進めてきた。そのことによって、各自律性の段階における目指す子どもの姿に違いがあることはもちろん、それらの姿を引き出すために講じる手立ての共通性や相違点を整理することができた。
▼児童の実態
また、研究においては、目の前の子どもの姿の変容を教師が実感することで、手立ての有効性に手応えを得るとともに、客観的な数値を一つの指標とするためにも「自律性アンケート」を年二回行っている。
これは、研究で目指す自律性の高まりは、動機づけの変容と関連があることから、学習に向かう子どもたちの動機付けが、どのように変容しているのかを見取るためのものである。過去二年間四回のアンケート結果からは、学年が上がるにつれて、内的よりも同一化的の割合が増えていくということ、そして、全学年を合わせた結果からは、内的や同一化的に大きな変化は現れてはいないものの、取り入れ的・外的調整が徐々に少なくなってきているという点において、研究が一定の成果を得ることができたと判断することができる。
よって、本年度三年次の研究においても、「興味の質の高まり」を単元構想の軸に授業を展開していくこととした。
このように、成果と言えることが子どもの姿や一定の客観性のある数値によって表れてきていると同時に、様々な教科や学年での実践、授業分析を通して、「興味の質の高まり」を軸として目指す子どもの姿や手立てを考えたことによって、「○○的興味の出現」がなされたあとに、その「○○的興味の出現」をつぎの「○○的興味の出現」にどうつなげていくのか、その具体に不明確な部分があった」という課題を見いだすこともできた。
そして、このことをどう解決していくのかが、現三年次目の研究のポイントになると考えた。
▼「論点整理」と本研究内容とのかかわりを整理する
また、昨年八月二十六日に教育課程企画特別部会より「論点整理」が示された今、当然その内容を十分に踏まえた取組を各学校で行っていく必要がある。本研究内容と論点整理で示されていることを整理していくと、「資質・能力」→「自律性」、「深い学習のプロセス」→「興味の質の高まり」、「学びの連続性」→「目指す子ども像の共有」、「自己肯定感」→「学ぶ意味の創造」など、一定の合致をみることができる。
一方、課題としていくつかのことも浮き彫りになってきた。一つ目は協働についてである。論点整理の中では、個人が自ら問いを立ててその解決を目指し他者と協働しながら新たな価値を生み出すことと述べられている。
これは研究テーマとも合致することであるが、本研究においては、「協同」は手立てとしての有効性がすでに一般化されていることから、研究レベルの視点として位置付けていなかった。
二つ目は課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び、いわゆるアクティブ・ラーニング(=AL)である。これはこれからの学習活動の在り方の一つとして示されているものではあるが、その構成要素を一つずつ見ていくと大変重要な視点だととらえることができる。
研究内容と照らし合わせて考えてみると、特に「自分の考えを拡げ、深める対話的な学びの過程」という視点において、先ほどの二年次目の研究から見えてきた「課題」につながるものであると考えることができる。この「自分の考えを拡げ深める対話的な学びの過程」については、「教師と子ども、子ども同士が対話し、それによって思考を拡げ深めていくこと」が求められている。
つまり、この過程においては「協同的な学び」や「思考の拡がり・深まり」がポイントとなり、これは先程の二年次目の研究の課題を解決するものとして、そのつながりを見いだすことができる。
▼三年次研究の視点を焦点化する
そもそも、このALとは何なのか。このことについては、一斉講義式ではない授業形態のこと、身体活動を行っていることなど,様々な定義がされているが、例えば、身体的な活動を行っていることとなると「生活科」「音楽科」「図工科」「体育科」など、もともとの教科特性によって身体的活動が豊かであるものはすでにALであるかとなると、当然そうではないということは明白である。
つまり、何がアクティブになっている必要があるのか、それは外的なものの先にある「内的なもの」を重視する必要があると考えることができる。
この内的なもののアクティブという視点について、学習の能動性を「外的活動」が高い・低い、「内的活動」が高い・低い、の四つに分け、整理した考え方がある。外的活動とは書く・話す・発表するなど、その様子が目に見える学習活動のこと、内的活動とは逆に目には見えないもの、つまり、子どもの思考の働きを指している。
先ほどの内的なアクティブを重視する必要があるということは、外的活動を通して、内的活動を高めていくことにつなげていくことが大切であると整理することができる。
前述のことを、二年次目の研究の視点「興味の質の高まり」と照らし合わせて考えると、興味の喚起・維持・出現の過程において何らかの外的活動を設定していたと整理することができると同時に、やはりそれらの外的活動から、どのように学習内容の獲得へとつなげていくのか、内的活動にあいまいさがあったり、十分に意識されていなかったりしたととらえることができる。
これらのことから、研究課題の解決のためには、学習活動の中で子どもの思考を能動的にすることが大切であり、そのためにどのような手立てを講じていくことが有効であるのかを模索していくこととし、三年次目副主題を「内的活動の高まりを促すための工夫」と設定することとした。
▼協同的な学び
先も述べたとおり、手立てがあいまいであったり、十分に意識されてはいなかったりしたものの、各教科の二年次の手立ての具体を見ていくと、交流する場の設定、評価の工夫、思考ツールの活用など、何らかの「内的活動の高まりを促すための工夫」を講じ、その具体として「協同的な学び」が手立てとして設定されていたということも明らかになった。
そこで、三年次研究においては、「内的活動の高まりを促すための工夫」の中での「協同的な学び」を授業レベルにおいて明確にし,より確かな「内的活動の高まり」を目指していくこととした。
協同的な学びの「学び合いのプロセス」として、「各個人→グループ→全体→内面化(個人)」のサイクルのモデルがある。このプロセスの中で重要な点は、四つの段階を順番に踏んでいくことが「協同的な学び」において大切であるという形式ではなく、注目すべきことは「個人」に始まり、「個人」で終わるという部分だと考える。
つまり、個の確立があるからこそ協同が切実なものとなり、展開される協同的な学びも深まっていく、そして学習は必ず個に回帰するということである。
よって、必ずこの四つの段階を通過しなければならないということではなく、「個」が確立していること、「個」に回帰していくことを大切に、その過程の在り方については、発達段階や教科等特性、学習内容と照らし合わせながら、適時その在り方を変更していくことと押さえていくことにした。
▼研究の構想
各教科が設定している「興味の出現が促された姿」は、その教科、どの段階の興味かによって「内的活動の高まりを促すための工夫」を講じることが必要か否か異なってくる。
そこで、どの興味の段階で「内的活動の高まりを促す」ために手立てを講じていくかは、各教科等で設定している目指す姿の具体と照らし合わせながら、設定していくこととした=図参照=。
▼研究仮説
以上のことから、本年度の研究仮説を「各教科等の学習において、“○○的興味の喚起・維持・出現”を促すために手立てを講じ、各段階の興味の質の高まりに合わせて、“内的活動の高まりを促すための工夫”を講じることによって、子どもが学ぶ意味を創造し、自律性が高まって行くであろう」と、設定することとした。
(学校 2016-08-04付)
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