【新春インタビュー】道教委・柴田達夫教育長に聞く―来たるべき未来見据えた教育を 「自立」と「共生」の理念踏まえて
(道・道教委 2017-01-01付)

P04寺島・柴田教育長インタビュー写真①
柴田達夫教育長

◆学力・体力、29年度に全国平均以上へ

 ―調査開始から十年目となる全国学力・学習状況調査の分析結果や検証から明らかになった成果と課題、今後の取組の方向性についてお聞かせ下さい。

 調査開始から十年目を迎え、教科に関する調査における本道の状況は、全国の平均正答率との差が全教科で縮まってきており、特に、小学校においては本年度、すべての教科で全国の平均正答率との差が二・七ポイント以内となり、平成十九年度の調査開始以来、差が最も小さくなっています。

 さらに、現在、中学校第三学年の生徒が、平成二十五年度に小学校第六学年で実施したときの結果と本年度の結果を比較すると、すべての教科で全国との差が縮まるとともに、全国の下位約二五%と同じ正答数の範囲に含まれる児童生徒の割合がすべての教科で減少しています。

 また、質問紙調査の結果からは、家で宿題をしている児童生徒の割合が増加している状況や、国語や算数・数学の指導として課題学習の課題を与えている小・中学校が増加している状況など、学習習慣の確立についても改善の傾向がみられるところです。

 これらは、子どもたちの学力向上や生活習慣の改善に向けて、各市町村教育委員会や学校、家庭、地域が連携した取組を継続するとともに、多くの学校が本調査の結果等を活用しながら教育活動の改善を進めてきた成果であると考えております。

 一方、授業で目標を示すことや学習したことを振り返る活動など、学校が指導を行ったと考えていても、児童生徒がそのように受け止めていない状況や、テレビやゲームにかかわる時間が長いなど、児童生徒に望ましい生活習慣が十分身に付いていないといった状況もみられることから、学校の組織的な取組のさらなる充実や家庭・地域との一層の連携の強化などが必要と考えております。

 道教委では、こうした子どものたちの学力・学習状況の課題や改善方策を共有しながら、学校・家庭・地域・行政と一体となって本道の児童生徒の学力向上に努め、二十九年度にはすべての教科で全国平均以上になるよう取り組んでまいります。

 ―本道の子どもの体力について、全国調査の結果を踏まえた課題と、今後の取組についてお聞かせ下さい。

 体力は健康の維持だけではなく、意欲や気力など精神面の充実にも大きくかかわっており、あらゆる活動の基盤として極めて大切なものです。

 二十八年度の全国体力・運動能力、運動習慣等調査における本道の状況は、依然として、各種目の得点を合計した体力合計点が小・中学校、男女いずれも全国平均を下回っていますが、前年度に引き続き、体力合計点が小・中学校・男女いずれも上昇し、種目別でも、多くの種目で全国との差が縮まっており、市町村教育委員会や学校における、体力向上に向けた取組の成果が改善の傾向として着実に表れてきているものと受け止めております。

 今後とも、本道の子どもたちの体力を向上させていくためには、学校や家庭等において、子どもたちに運動や外遊び、スポーツの楽しさを実感させ、運動習慣の定着を図ることが重要であることから、学校においては、引き続き、手軽な運動を通じて体力の向上につなげる「一校一実践」など、創意工夫を生かした取組や体力にかかわる全国調査の結果に基づく授業改善等に向けた取組を一層推進していただきたいと考えております。

 また、家庭においては、「一日六十分以上」など運動時間の目安を設けて、子どもたちに運動習慣を定着させるための働きかけを行うことや、地域において、子どもたちが運動に親しむことのできる機会を今まで以上に提供することなど、子どもたちの体力を高めるための教育環境づくりを進めていただきたいと考えております。

 道教委では、地域の社会教育団体等と連携した各種スポーツ教室の実施や、親子でスポーツに親しむ機会の提供などに取り組むとともに、道内四つのプロスポーツクラブや大学などと連携を図ったモデル校での実践研究、体育授業等に関する教員研修の実施など、体育授業の改善や運動機会の拡充に取り組んでいるほか、本年度から毎年十月を「どさん子体力アップ強調月間」に設定し、子どもの運動機会を創出する環境づくりを推進するなど、体力向上に向けた取組の充実に努めております。

 今後においても、体力向上に向けた取組が道内の各地域において、より一層推進されるよう、学校・家庭・地域・行政が一体となった体力向上に向けた取組を一層推進し、二十九年度までに「全国調査における本道の子どもたちの体力合計点が全国平均を上回る」との目標の実現に向けて取り組んでまいります。

◆豊かな学びの実現目指して

 ―次期学習指導要領において、「主体的、対話的で深い学びの実現」や「カリキュラム・マネジメントの確立」「小学校における英語の教科化」などが位置付けられようとしていますが、そのことについて、どのように取り組むのかお聞かせ下さい。

 本道においても、グローバル化や情報化といった社会的変化が加速度的となっている中、将来において、子どもたちがより良い人生とより良い社会を築いていくためには、子どもたちの成長を支える教育の役割がますます重要となっています。

 このような中、次期学習指導要領が告示される予定でありますが、各学校においては、現行の学習指導要領に基づき編成・実施した教育課程の成果と課題を子どもの学びの姿で検証するとともに、新しい学習指導要領の趣旨について理解を深める必要があります。

 特に、社会とのかかわりの中で豊かな学びを実現していくことや、教育課程を軸に学校教育の改善・充実の好循環を生み出すことなどが求められていることを踏まえ、「社会に開かれた教育課程」の実現や「カリキュラム・マネジメント」の確立、「主体的・対話的で深い学び」、いわゆるアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善などに向けた取組を着実に推進し、子ども一人ひとりの豊かな学びを実現する教育課程を編成・実施することが大切です。

 道教委では、道内のすべての学校、先生方が新しい学習指導要領に適切に対応できるよう、各種指導資料を作成し、指導主事の学校訪問等において指導助言するほか、「教育課程改善協議会」などの各種研修において、繰り返し、説明、協議するなどして理解を深めていく考えです。

 また、二十七年度から、全道十四管内でアクティブ・ラーニングに関する実践研究を実施しており、今後、その成果を普及するとともに、各種研修会や指導主事の学校訪問等において、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた校内研修の進め方や、学びの質を高める指導方法の改善について指導助言するなどして、各学校の取組を支援してまいります。

 英語教育については、小学校における英語の教科化に向け、小学校教員の指導力向上がより大切であると考えており、二十八年度から指導力に優れた教員が、近隣の複数の学校を巡回し、学級担任やALTとの授業や、校内研修の支援を行う「小学校外国語活動巡回指導教員研修事業」を進めております。

 また、カナダ・アルバータ州立大学のオレンカ教授を講師とした研修や、国の中央研修を受講した英語教育推進リーダーを講師とした研修を各管内で順次実施するなど、先生方の英語力、指導力向上に向けて支援してまいります。

◆グローバル人材育成に向けて

 ―グローバル化の進展に伴い、国際共通語である英語を使い、積極的にコミュニケーションを図ることができるグローバル人材の育成が求められていますが、今後の具体的な取組をお聞かせ下さい。

 グローバル化が進展する中、これからの本道においては、食や観光の基盤となる農林水産業が成長産業として持続的に発展していくために道産食品のさらなる海外展開のほか、急増する外国人観光客への対応などが求められており、それらを担う人材の育成が教育にも大きく期待されているものと理解しています。

 道教委では、「道立高校を卒業するすべての生徒に、英語で少なくとも日常的なコミュニケーションができる力を身に付けさせる」という独自の到達目標を設定し、その到達度を把握しながら様々な取組を進めることとしています。

 取組の一例として、本年度から新たに、生徒が国際的な視野を広げ、コミュニケーション能力を高めるため、ICTを活用して定期的に海外の高校生との意見交換などを行うU―18未来フォーラム事業に取り組んでいます。

 また、ことしで二十三年目になりますが、国際的な視野とコミュニケーション能力の育成を目指し、道立高校の生徒とカナダ・アルバータ州の高校生が、お互いの家庭にホームステイしながらパートナーの高校へ通学する北海道・アルバータ州高校生交換留学促進事業を継続して実施するとともに、留学経験者からの報告などを行う高校生留学フェアを全道六会場で開催して、高校生の留学への意欲を高めるように取り組んでいます。

 さらに、小・中学生および高校生を対象に、オール・イングリッシュで外国人と過ごす北海道イングリッシュキャンプ事業を実施しており、参加した児童生徒の感想からは、英語によるコミュニケーションを積極的に取ろうとする意欲の高まりがみられます。

 今後は、こうした取組に加え、中学生が、自身の英語学習の振り返りをすることや到達度を把握することができる道独自のシステムの構築について検討するほか、英語教育を充実するとともに、教員の英語力や指導力の向上を図るため、英検などの資格試験団体と連携した教員の資格取得を促進する新たな支援策を検討するなどして、英語教育の充実を図り、グローバル人材の育成に努めていきます。

◆遠隔授業・研修の導入促進

 ―本道の広域性や人口減少に伴う小規模校が増加しています。今後どのように教育の充実を図るのかお聞かせ下さい。

 広域分散型の地域特性を有する本道においては、特に郡部に多くの小規模校が存在しており、これらの学校においては、人口減少や少子化等の影響によって、児童生徒数や学級数が減少するなど、一層の小規模校化が進んでいます。

 小規模校では、個別指導を行いやすいという利点もありますが、子どもの社会性が育ちにくいことや、多様な考えにふれる機会が少ないなどの課題もみられます。

 このため、地域によっては、活力ある教育活動を展開するために、学校の再編整備を進めている状況もみられますが、一方で、他校への通学が困難であるといった地理的事情などから、再編整備が難しい学校も数多く存在します。

 本道において、教育の機会均等、教育水準の維持向上を図るためには、小規模校における教育環境の維持・充実が極めて重要な課題であると考えております。

 また、教員にとっても、本道の広域性や冬季の気象条件などのために、校外の研修に参加することが難しい場合が多いことや、小規模校化による教員数の減少に伴い、同僚教員から日常的に指導を受ける機会が少なくなっているという状況もみられます。

 こうした本道特有の課題に対する解決策の一つとして、道教委では、ICT機器を活用した遠隔授業や教員向けの遠隔研修の取組を推進しているところです。

 遠隔授業については、都市部の中大規模の高校と郡部の小規模高校とをICT機器で接続し、都市部の高校から遠隔授業を配信することによって、小規模高校における教育課程の幅を拡大し、生徒の進路希望等の実現に向けた支援の充実を図るなど、地域における教育機能の充実を図っています。

 また、遠隔研修については、道立教育研究所から地域の学校や教員研修センター等に映像の配信を通した教員研修を実施することによって、遠距離の出張等を行うことなく、身近な地域において充実した研修を受講できる機会の確保に努めてまいりたいと考えております。

 道教委としては、こうした取組については、さらなる充実を図るとともに、各教育委員会や地域の方々と連携・協力しながら、地域における教育の環境づくりの推進に取り組んでまいります。

 ―二十八年四月、知事と教育長が連名で、いじめ根絶に向けたメッセージを全道に発信しました。いじめ問題をはじめ、不登校や高校の中途退学など、生徒指導上の課題はいまだ山積していると思いますが、それらの課題に対する認識と今後の取組についてお聞かせ下さい。

 教員は、日ごろから子どもと同じ場で生活しており、子どもを観察し、家庭環境や成績など多くの情報を得ることができ、問題が大きくなる前にいち早く気づくことができる存在です。

 そのため、教員は、子どもたちの発するサインを見逃さないよう、日ごろから、観察や面接、関係機関や地域とのネットワークづくりを進めるなどの方法によって、児童生徒理解を着実に進め、問題行動の早期発見に努める必要があります。

 いじめや不登校、中途退学など生徒指導上の諸問題を解決するためには、各学校が、教育活動全体を通じて、児童生徒の自己存在感や自己有用感を高める取組の充実や、望ましい人間関係の構築、学びの楽しさを実感できる授業の実施などに取り組むとともに、きめ細かな教育相談体制の整備や、家庭や地域社会および関係機関等との連携・協力を密にし、児童生徒の健全育成を広い視野から考える開かれた生徒指導の推進を図ることが重要です。

 道教委では、これまで、子どもたちの望ましい人間関係を築く力を育む「中一ギャップ問題未然防止事業」や「高校生ステップアップ・プログラム」を実施するとともに、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置や派遣、子どもたちのコミュニケーションスキルの状況を発達の段階に応じて測定できるツール「子ども理解支援ツール“ほっと”」の開発、子どもや保護者等からの相談を受け付け、問題解決の支援につなげる「子ども相談支援センター」の開設などに取り組んできました。

 今後とも、こうした取組を一層充実させるとともに、子どもの変化にいち早く気づくことのできる教員の教育相談等に関する資質・能力の向上に取り組み、問題行動等の未然防止、早期発見・早期対応に取り組んでまいります。

 ―本道教育の将来展望や将来を担う子どもたちへの期待についてお聞かせ下さい。

 これからの時代を担う子どもたちには、ふるさと北海道に誇りと愛着をもち、互いに支え合いながら、先行き不透明な未来を、たくましく生き抜いていくための力を身に付けさせる必要があります。

 このためには、教育に携わるすべての関係者が、それぞれの果たすべき役割と責務を自覚し、「自立」と「共生」という本道教育の理念を踏まえ、教育行政を推進していくことが必要です。

 また、先に述べた取組を進めるためには、地域の方々との連携が不可欠であり、本道の未来を担う子どもたちを地域全体で守り育てていくという観点に立って学校・家庭・地域・行政のつながりを更に深め、教育環境の一層の充実を図っていくことが、大変重要だと考えております。

 道教委としては、「北海道の子どもたちは、道民の手で、地域全体で育んでいく」という認識のもと、目の前の課題を先送りせず、来たるべき未来を見据えながら本道教育の充実・発展に取り組んでまいりますので、道民の皆さんの変わらぬ理解と協力をお願いいたします。

(道・道教委 2017-01-01付)

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