道教育大附属釧路中学校の研究概要 学ぶ意味創造できる子育成 やりたいことみつけられる手立てを
(学校 2015-11-11付)

 【釧路発】道教育大附属釧路中学校の本年度の研究概要はつぎのとおり。

▼はじめに

 北海道教育大学附属釧路小学校・中学校では、昨年度より主題を「自ら学ぶ意味を創造できる児童・生徒の育成」と設定し、小中連携での研究を始めた。本年度はその五ヵ年計画の二年次となる。

▼小中連携による研究

 小中が連携して研究を進めるにあたり、まず我々小中教職員は、義務教育の目的を確認した。それは、一人ひとりの国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成、という二点に集約することができ、この両者の調和のとれた教育を義務教育九年間を通して実現していかなければならないということである。

 そして、つぎに、小中連携の重要性についての共通理解である。現在、教育界では急速に小中連携の重要性について叫ばれている。特に学習内容が高度化する中学校では、小学校段階に比べ、学習の理解度が低下したり、問題行動等が増加したりするといった多くの教育課題を抱え、いわゆる中一ギャップの解消が大きな課題となっている。こうした現状を打破するためにも、小中九年間を通した学びの系統性を確立させたり、教師が相互交流したりするなど、学習と生活の両面にわたり、小中学校を大きく見渡した効果的な指導が求められている。

 こうしたことを踏まえ、我々は義務教育九年間で、児童・生徒を育てる、成長させる、変容させるという明確な目的をもち、研究をスタートさせた。

▼研究主題と目指す児童・生徒像

 つぎに、具体的にどういう児童・生徒を育てていくのか、目指す児童・生徒像と研究主題についてである。昨今、様々な問題が多様化・複雑化している社会を今後生き抜いていくために、「自立した個人が、他者と協働することで新たな価値、社会の変化を作り出す力」の必要性が明らかになっている。これを受けて、昨年度、国立教育政策研究所から、このような人間の育成を図る上で必要な資質・能力、つまり学習指導要領の理念である生きる力を実効的に獲得することを目指す「二十一世紀型能力モデル」が報告された。このモデルに示されている力は単なる知識ではなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的リソースを活用して複雑な課題にも対応できる力を示しているものである。

▼児童・生徒の実態

つぎに、附属釧路小・中学校児童生徒の実態である。明らかになった実態は、①基礎的・基本的な知識や技能の習得に困難を感じている児童・生徒の増加②功利的学習観の所有③耐性の欠如―の大きく三点に集約される。これらの実態を総合的に分析していくと、学習に対して他律的であり、何のために今の学習を行っているか、その学習の目的や良さが見いだせずにいて、粘り強く学習に取り組もうとする姿勢に課題があるといえる。

▼研究主題 

 以上のことを踏まえ、昨年度から附属小中学校では、学ぶこと自体に明確な目的が見いだされ、意欲をもって持続的に学習に取り組もうとする児童・生徒の育成、つまり、学ぶことが自律的になされている児童・生徒の姿の実現化が重要であるととらえ、研究主題を「自ら学ぶ意味を創造できる児童・生徒の育成」と設定した。

 「学ぶことが自律的になされている姿」とは、学び自体に有能感や必要感がはっきりとしており、学習を通して学んだことをこれからの学習や生活に生かしていこうとする状態と我々はおさえている。そして、この学びの自律性がなされれば、主体的に考え、判断して、行動でき、新たな価値を率先して見いだすことができる人間となり、社会全体の持続的成長と発展に、先頭をきって寄与できる人材として活躍するであろうと考える。

▼小中共通の研究の視点

 今述べた児童・生徒像の実現に向けて、我々小中では共通の研究の視点として、まず一つ目に、発達段階に応じて自律性を九年間でどのように系統立てて育んでいくべきかを明らかにさせた。「やれること」、すなわち基礎力が身についた状態を土台として、学年が上がるにしたがい、「やれること」を自覚させていく、つまり自分は何のために学んでいるのか、学びを通してその意味を感じさせ、その学びの面白さや良さを実感できるようにしていき、そして最終的に中学校段階において、学びへの価値意識・必要感をさらに高めさせたことで芽生えた学びの有用性から、「やりたいこと」を見つけて挑戦したり、日常生活やつぎの学びへ生かそうとしたりすることができる姿へと導かせていこうとしたものである。

 なお、我々はこの構造図をよりどころにして、各教科で、教科による「自律性の姿」を明らかにさせ、それぞれの教科で明らかにさせた自律性の姿へと導くために、どういう手立てを講じていくかを実証研究していくこととした。

▼「きょうどう」の場の設定

 つぎに、小中共通の研究の視点二点目である。我々は、先に述べた自律性を高める上で、必要不可欠である「きょうどう(共同、協同、協働)」の場を、単元や題材等に意図的に位置付けていくようにした。二十一世紀型能力から提唱するこれからの資質・能力の中でも、人とのかかわりの中で課題を解決できる力を高めるために、「協働」は重点化されている。

「きょうどうの場」を通して自律性の高まりを促せるように、きょうどうの場のもち方や位置付けなどを工夫して、効果的に機能して働くことができるよう、こちらも教科レベルで研究を推進している。

▼「言語化」を通して

 小中共通の研究の視点の最後は言語化である。自己の考えを説明する上で、言語化の必要性は言うまでもない。ほかとのかかわり合いの中で、自分の考えを伝え合うことができなかったり、自己の学びをメタ認知したりできなければ、学習を価値付けることや社会とかかわりながら自分の在り方を考える社会スキルを身に付けていくことはできない。言語化を通して学びの自律性を高めることも、大切にして我々は研究を進めていくことにした。

▼研究仮説(小中共通) 

 これらの研究の視点を踏まえ、研究仮説を「各教科において、発達の段階に即して児童・生徒の〝やれること〟〝やるべきこと〟〝やりたいこと〟の調整を促すための工夫および「言語化」、「共同・協同・協働」を手立てとして講じることで、児童・生徒の自律性は高まり、自ら学ぶ意味を創造できる児童・生徒が育成されるだろう」と設定し、五ヵ年計画による小中連携研究を推進してきた。

▼中学校研究について

 これまで述べた小中連携研究全体論を受けて、中学校段階で重視していく本年度の研究の視点を説明する。

 まず、研究を推進していくにあたり、本校は開校以来、授業の最適化を研究のバックボーンとして実証研究を進めている。この「授業の最適化」とは、「授業で人をつくるという自負のもと、理想の授業の実現に向けた授業改善をしていき、理想の授業を通して育まれるであろう「目指す人間像」、ここでは「文化(諸価値)を内在化し、その創造にかかわりうるような人間」として規定し、生徒の「人格の完成」を目指すものである。この目指す人間像は、我々が小中で連携して目指すべき児童・生徒像と合致しているものとなっている。

▼理想の授業

 理想の授業とは、①文化に対して即時的な態度が培われるような授業②情動や体験を介して深く限りなく分かっていけるような授業③学ぶことを自分たちの生き方にかかわらせ得るような授業④価値の諸面を包摂的に分かっていけるような授業⑤共同体的な学級集団の中で積極的に学びあっていけるような授業―をさす。我々は、こうした理想の授業の実現化を日々の実践の中で目指すことで、目指すべき生徒像の実現を図ろうとする研究を行ってきている。

▼本校生徒の実態

 つぎに、本校生徒の実態についてである。先に述べた理想の授業の実現に近づけることができたかを客観的に見取るために、本校では毎年十二月に「スクールサーベイ」、いわゆる学習に対する意識調査を実施している。そのスクールサーベイの数値を分析すると、学習において、「これは難しい、しかしやりがいがあると感じ、夢中になった」生徒がここ数年と比べると減少してきていることが分かった。学習に対してやらされている気持ちが強く、有能感を持てない、学習に対する価値観が見いだされていないことが考えられる。

 また、学習を踏まえ、「今まで関係がないと思っていたことも、こんなつながりがあるのかとはじめて知った」の経年度変化を調べてみると、こちらも、昨年度よりは微増したものの、ここ数年と比べるとやはり数値の下降が見られる。授業を通して学んだことが、どのように日常やほかの学習へつながっていくのか、学習したことがどのような場面で役立つのかといった、有用性の欠如、学習で得た価値の広がりが見られないということが浮き彫りになった。

 さらに、授業において、「習ったことがどこまでもボンヤリしていて自信をもつことができなかった」と答えている生徒は、基礎・基本の定着に難を抱えていることはもちろんのこと、NRT・CRT検査による数値を見ても、思考力に関連する数値がほかの観点に比べて低く、学習で得た基礎・基本を使えていない、論理的に理解していないことが判明した。今後、思考力を高めることが、課題であると強く感じた。

▼本年度の中学校研究の視点について 

 以上で述べた本校研究の基盤となっている授業の最適化や本校生徒の実態、最初に小中連携による研究で述べた内容等を踏まえ、本年度、中学校では、「学ぶことを自分たちの生き方にかかわらせ得るような授業」を構築していくことで、生徒の自律性を高め、自ら学ぶ意味を創造できる人間の実現に迫っていこうと考えた。

▼各教科の視点

 理想の授業五つの視点には、①知っているという段階(消極)→自分と自分たちにかかわらせうるような段階(積極)②実践や生活とは外在的な知・技(消極)→実践や生活にかかわるような知・技(積極)③価値無記な知・技(消極)→価値の選好にかかわるような知・技(積極)④個性の選択と形成に無縁な知・技(消極)→個性づくりにかかわるような知・技(積極)―など、それぞれ消極的な段階である消極次元と、積極的な段階である積極次元が示された項目が設定されており、この消極次元の段階を、いかにして積極次元へと導かせていくかが、実践研究の核となる。

 我々が共通で本年度視点とする理想の授業は、「学ぶことを自分たちの生き方にかかわらせ得るような授業」であり、この四つの項目を、それぞれの教科の内容に置き換え、自分の教科は現段階でどの項目が課題としてあげられ、学ぶことを自分たちの生き方にかかわらせるために、重点化すべきかを客観的データから探り、研究の視点となる項目を明らかにさせた。

▼中学校研究仮説

 以上のことから、研究仮説を「各教科の授業において、学ぶことを自分たちの生き方にかかわらせうるために、〝やるべき事に納得し、やりたいことを見つけられる〟ような手立て、および〝言語化〟〝協同・協働〟を手立てとして講じることで、生徒の自律性が高まり、自ら学ぶ意味を創造できる生徒が育つであろう」と設定した。

▼研究の成果と課題

 授業で学んだことが、自らの生活や社会、今後の学習に生きることを実感させることに主眼をおいた研究は、二十一世紀型能力の思考力に視点を置いたものであり、生徒の自律性を高める上で、有効的であることに確証を得ながら、研究を推進している。

 ただ、この研究が、各教科、ある一つの単元や領域だけで通用するものであれば、意味がない。今後、この研究が、広くあらゆる単元・領域の中で、効果が認められるものであるかを、実証研究していかなければならないと考える。また、協働の場のもち方や、協働の場を機能させるための言語活動の在り方など、課題は山積である。

 今後、さらに各教科においては、これらの課題についても追究して、研究の手立ての妥当性を明らかにさせていきたいと考えている。

(学校 2015-11-11付)

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