第73回全日中研記念講演 個をケアしていくことで 信州大・山口特任教授が登壇
(関係団体 2022-10-25付)

全日中研記念講演山口氏
全日中研記念講演山口氏

 山口氏は札幌市生まれ。東京大学在学中に司法試験に合格。財務省、弁護士事務所勤務を経て、現在は家族法の研究者として活動する傍ら、執筆や講演、コメンテーターとしてテレビ出演するなど幅広く活躍している。

 山口氏は冒頭、米中における国家観の違いを取り上げた。中国が国家主義的な教育を展開しているのに対し、アメリカは個人主義的な教育を進めていると説明。コロナ初期の2020年4月から6月期においては、中国が効果的な統制によってGDPをプラス化した一方で、現在はアメリカがアフターコロナにおける景気の過熱を見せていることを指摘し「個人を国家の中にぐっと引き付ける力があるのではないか。それが知の集積になっている」と持論を展開した。その上で「私たちは今、国家を個人の上に置くか、それとも徹底した個人主義によってイノベーションを起こすか、教育現場をどちらにすべきかを突き付けられているのだろう」と提起した。

 日本の社会では「コミュニティーの利益を非常に重視する」と述べた。例えば、コロナ下でマスクを着用することを挙げ「自分の身を守る目的もあるが、むしろコミュニティーに対する責任の象徴でもある」と説明。「私たちの社会は完全な個人主義とも言い切れない。国家なのか、個人なのか、日本はどこに帰属意識を持ってきたのだろう」と疑問を投げかけた。

 人気アニメ映画における鬼退治をモデルとしたストーリーを例に「親から子へと世代を超えて、時代を超えて連綿と引き継いでいく価値観は、日本が伝統的に持ってきたもの。私たちは国家でもなく、個人でもなく、伝統的に家族的なものにこそ帰属意識を持ってきたのだろう」と述べた。

 一方で、日本における選択的夫婦別姓に関する議論を取り上げ「われわれはいまだに“結婚は家と家との結合だ”という世俗の感覚を捨て切れていない。強固に日本に残る家的な価値観が、来たるべきこの時代にどう変わっていくべきか?ということが、今の日本に突き付けられた問題」と述べた。

 財務省在籍当時、自身が体験した人材育成の在り方などを「家族型の職場。そこには個人に対する圧倒的なケアがあった」と振り返った。しかし「どれだけ完成されたシステムでも光の裏で影ができる。個人に対するケアは、個人に対する強度の高いコントロールと裏表」と述べた。教育現場における若手教員への指導という場面にも「ある程度の家族的な指導というのはあったのではないか」と指摘。従来型の育成方法に一定の成果を認めつつ、いわゆるミレニアム世代やZ世代など「つぎの現場を担う世代に、果たして受け入れられるのか」と問いかけ、新たな規範意識としてポリティカル・コレクトネス(以下、ポリコレ)の考え方が台頭していることを強調した。

 性別や人種に関する差別について、スポーツ選手におけるエピソードを引き合いに「かつては意図的なことが良くないと言われたが、ポリコレの時代においては無意識こそが良くない。つまり、意図的ではなく、潜在意識までポリコレに反しているのが良くない」と持論を。性自認・性指向におけるLGBTQと分類することなどは、既により多くの考え方が広がっていることから「少数者の中に、それに含まれないさらなるマイノリティーをつくってしまう」と述べ、多様性の時代にあって「全ての人をあまねく包含しなくてはならない」という考えに反することを訴えた。

 ミレニアル世代やZ世代以降の中学生などは、コンテンツがテレビではなくインターネットが主流となっており「彼らの世代はポリコレ感覚が上。ネットに国境はなく、ポリコレ感覚が欧米人並みになっている」と伝えた。

 これらを踏まえ「価値観が急速に変わっていく今、個人が個人の意思で自分の人生を選択できるようにしなくてはならない」と指摘。働き方改革によって個人主義的な考えが急速に広まった一方で、オンライン化によって「“人は人に会いたい”“人に会わずに生きていけない”と気付いた」と述べ、これからの組織は「柔軟さと強靱さを併せ持つレジリエントであるべきだ」と強調した。「GIGAスクールの時代に生徒は、同じ教育に入りながらも全く違うコンテンツを見ているのかもしれない。そうした場合にも個人をしっかりケアしていくことさえできれば、個人主義で多様性あふれる社会を“分断の社会”にせず、日本は再び世界に誇れる国になるのではないか」と締めくくった。

キーワード

ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)

 社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された政策、または対策などを表すもの。人種や信条、性別などによる偏見や差別を避ける表現をすること。政治的な妥当性とも訳される。

(関係団体 2022-10-25付)

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