縦、横、人つながる教育 道国語教育連盟 釧路大会
(関係団体 2022-10-25付)

白糠庶路学園読むことは領域
授業について説明する堺田教諭

 【釧路発】道国語教育連盟(横道幸紀委員長)・釧路国語教育研究会(松岡伸之会長)は今月上旬、釧路市立景雲中学校を会場に、第77回道国語教育研究大会釧路大会を開いた。道内各地から約210人が参加。公開授業や研究発表、講演などを通して、言葉と主体的に向き合い「縦」「横」「人」がつながる国語科教育の在り方を探究した。

 釧路での大会は5年ぶり9回目。コロナ禍の影響によって3年ぶりの参加型での実施となったが、公開授業は事前に撮影した動画を視聴し、研究協議は会同して行う「ハイブリッド方式」での開催となった。

 大会主題は「言葉と主体的に向き合い続ける子供の育成~「縦」「横」「人」がつながる国語科授業を通して」。

 開会式は別室から配信された映像を各教室で視聴する形で行われた。

 あいさつに立った横道大会長は、3年ぶりの対面方式での開催に感謝の意を述べ、本大会の成果がコロナ禍での言語によるコミュニケーション能力の育成に結び付くことに期待を寄せた。

 松岡大会運営委員長は会同方式での開催となった経緯を説明。前年度踏襲ではなく一歩前進できる大会にすることでアフターコロナへの対応につなげるよう呼びかけた。

 引き続き、道国語教育連盟の中島大輔研究部長(道教大附属札幌小)と釧路大会の土藏辰弥研究部長(釧路町立遠矢中)が、それぞれの主題設定について解説。主題と授業および提言等との関連などについて説明した。

 このあと、札幌国際大学人文学部現代文化学科の高橋伸教授による講演が行われた。午後からは授業分科会に入り、小学校、中学校9つの授業動画を公開。動画は30分程度で、画像を停止して授業のポイント等を解説するなど、視点が明確になるようにした。視聴後は、各分科会で研究協議や提言発表が行われた。

 公開授業の授業者と提言者はつぎのとおり。=敬称略=

【授業者】

▼小学校

▽堺田英(白糠町立庶路学園)=1年「場面を想像しながら読もう“けんかした山”」

▽石川諒介(弟子屈町立弟子屈)=2年「じゅんじょに気をつけて読み、つながりを見つけよう“すみとあり”」

▽長屋樹廣(道教大附属釧路義務前期)=2年「聞いてたのしもう“いなばの白うさぎ”」

▽山田宗一朗(釧路市立鶴野)=4年「役わりをいしきしながら話し合おう“クラスみんなで決めるには”」

▽兒玉千里(釧路市立城山)=6年「具体的な事実や考えをもとに、提案する文章を書こう“私たちにできること”」

▼中学校

▽鎌田祥平(白糠町立庶路学園)=2年「適切な根拠ってなんだろう?“根拠をもとに意見文を書く”」

▽坂井洋介(鶴居村立幌呂)=3年「目指すべき学校の姿を話し合おう“意見を共有しながら話し合う”」

▽小野村凜(釧路町立遠矢)=3年「人物を手がかりに、物語を読もう“握手”」

▽中田千晶(釧路市立北)=3年「和歌をテーマごとに分類しよう“君待つとー万葉・古今・新古今”」

【提言者】

▼聞くこと話すこと領域

▽金子竜也(標茶町立中茶安別小)「自他の対話を通じて自己理解を深める授業の実践」

▽福西晟歩(釧路市立音別中)「相互の立場を理解し、よりよいコミュニケーションの輪を広げる授業の実践」

▼書くこと領域

▽松浦季輝(釧路市立光陽小)「書くことへの達成感や書いて伝えることの大切さを感じさせる授業の実践」

▽森谷昌弘(白糠町立庶路学園)「“ゆさぶる”ことで書くことに必要感を生じさせる授業の実践」

▼読むこと領域

▽飯田康太(弟子屈町立弟子屈小)「言葉に着目して考え、児童一人一人の感じ方の違いに触れることで、読みの深まりを感じることができる学習指導の工夫」

▽竹内彩乃(釧路町立富原小)「言葉を手掛かりに論理的に思考し、言葉に立ち止まって読むことができる学習活動の工夫」

▽荻原愛(釧路市立景雲中)「縦・横・人の「つながり」から、主体的な学びを生み出す学習活動の工夫」

▼伝統的な言語文化

▽今井伸(標茶町立虹別小)「子供が主体的に伝統的な言語文化に親しむことができる授業実践」

▽唐田加菜子(白糠町立白糠学園)・太田佳代子(釧路市立鳥取西中)「主体的に古典に親しむ生徒の育成を目指した単元デザインの工夫」

◆相手に伝わるためには 白糠庶路学園 読むこと領域

 授業分科会のうち、小学校「読むこと」領域部会では、堺田英教諭(白糠町立庶路学園)が指導する「場面を想像しながら読もう“けんかした山”」の授業動画を視聴した。

 授業は8時間扱いの7時間目。本時の目標を「文章中で特に伝えたい言葉を、声の大きさや速さなどの工夫の意図をもって読むことができる」とした。

 はじめに、出来上がった紙芝居を音読したあと、2年生の劇の様子を視聴。自分たちとの音読の違いに気付かせた上で「もっと伝わるように読み方をくふうしよう」という本時の課題を確認。相手により良く伝わるため、読む速さや声の大きさなどに着目した。

 子どもたちは「“どっと”を大きく読むと、いっぱい噴き出している感じがするね」「“とうとう”をゆっくり読むと残念そうな気持が伝わるかな」など、状況や登場人物の心情の変化の読み取りなどから、読み方でどのような違いが生まれるかをペアになって伝え合った。

 最後に、30枚の音読カードでの練習。カードには、これまで蓄積した言葉が太字で示された一文が書かれており、太字の部分を「ゆっくり」「おおきく」という指示に従って読み方を変えることで、特に伝えたい言葉について、声の大きさや速さなどを工夫して音読した。

 引き続き行った研究協議では、協議の柱①新たな問いや気付きを生み出す「見通し」を持てる授業づくり②考えの変容が自覚できる「交流場面」の設定―の2つを中心に活発な意見交流を行った。

 参加者からは「1年生は、繰り返し読むことが大切」「場面のつながりや叙述を意識することが音読にもつながる」という意見や、伝えるためのポイントを意識させたことで「授業の後半は、声が出て表情が豊かになっていた」と、伝えたい言葉を意識した音読に変化が見えたという声が上がった。

 助言した釧路教育局の小田浩平義務教育指導班主査は、音読の学習がしっかりされていると評価した上で「音読は楽しく自信を持って読むことが大切。つぎの学習意欲にもつながる」とした。主体的に言語活動ができる環境は重要であるとし、子どもが言葉と向き合える授業づくりに期待を寄せた。

◆良い授業を問い続けて 札幌国際大・高橋教授講演

開会式に引き続き行われた講演は、別室から配信形式での実施となった。

 講師は札幌国際大学人文学部現代文化学科の高橋伸教授=写真=。「個に応じた指導で言葉の力を高める国語科授業」と題して、新しい国語教育が目指すものや主体的に学習に取り組む態度などを説いた。

 高橋教授は①北海道の研究について②新しい国語教育が目指すもの③主体的に学習に取り組む態度―の3点を中心に、国語教育が目指す方向性や主体的な学びなどについて解説した。

 はじめに、北海道の研究について、研究主題をベースに解説。大会の「釧路の手立て」との関連などを明確に示した。

 新しい国語教育が目指す「令和の日本型学校教育」については「個に応じた指導」や「従来の実践とICTの最適な組み合わせ」などについて実践例などを交えながら説明。

 「個に応じた指導」とは、指導の個別化と学習の個性化を教師視点から整理した概念であり、これらを学習者視点から整理した概念が個別最適な学びであるとし、どちらも学習を調整することに関わるとした。

また「従来の実践とICTとの最適な組み合わせ」の実現は、個別最適な学びに役立つとともに、教師の負担を軽くすることにも結び付くとした。

 指導の個別化(支援)と学習の個性化(探究)につては、具体的事例を挙げながら解説。

 読み取りに時間がかかる生徒が、作品を9つの文節に分けたカードを画面上で並べ変えることで、作品の大筋を捉えことができるとともに、教科書が読み取れているかを把握することも可能とした実践例を紹介。

学習の個性化(探究)は、教師が子ども一人ひとりに応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供するとし、作文が早く終わってしまった生徒に対しての活用事例なども示した。

「主体的に学習に取り組む態度」では、まず参加者へ「良い授業ってなんだろう?」と質問。講演終了までにスマートフォンなどから各自の意見を投稿してほしいと呼びかけ、説明に入った。 

これからの学校は、子ども自らが学習の状況を把握し、主体的に学習を調整することができるよう促していくことが求められるとし、「自己調整学習」を提示。関連する2つの名言として「教師の目標は、生徒の学習を指導する仕事から教師自身が抜け出すことである」「学習は、生徒のために進めるものではなく、生徒によって進められるものである」を紹介し、教師の主な役割は、生徒が学習の進歩は自分の責任だと考えるように支援することであるとした。

教育を語る語彙は、その時代の基幹産業で用いられる語彙が流用されるとし、数万年前からごく最近まで基幹産業だった農業の比喩を復権させるべきという学者の考えから、農業用語で語られる「人間が関与できるのは一部。あとはお天道さましだい」を紹介。

最後に「良い授業ってなんだろう?」をあらためて問いながら、参加者からの返答を読み上げ、良い授業とは何かを問い続け、言葉の力を高める国語科授業に期待を寄せた。

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