高校生の政治的活動等にかかる文科省通知概要
( 2015-11-04付)

 文部科学省が十月二十八日付で発出した「高校等における政治的教養の教育と高校等の生徒による政治的活動等について」(通知)の概要はつぎのとおり。

 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律(平成二十六年法律第七五号)によって、施行後四年を経過した日(平成三十年六月二十一日)以後にその期日がある国民投票から、国民投票の期日の翌日以前に十八歳の誕生日を迎える者は、投票権を有することになった。

 また、公職選挙法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第四三号。以下「改正法」という)によって、施行日(平成二十八年六月十九日)後に初めて行われる国政選挙(衆議院議員の総選挙または参議院議員の通常選挙)の公示日以後にその期日を公示され、または、告示される選挙から改正法が適用されることとなり、適用される選挙期日の翌日以前に十八歳の誕生日を迎える等の公職選挙法(昭和二十五年法律第一〇〇号)第九条の各項に規定する要件を満たす者は、国政選挙および地方選挙において選挙権を有し、同法第一三七条の二によって、選挙運動を行うことが認められることとなった。

 これらの法改正に伴い、今後は、高校、中等教育学校および高等部を置く特別支援学校(以下「高校等」という)にも、国民投票の投票権や選挙権を有する生徒が在籍することとなる。

 高校等においては、教育基本法(平成十八年法律第一二〇号)第一四条第一項を踏まえ、これまでも平和で民主的な国家・社会の形成者を育成することを目的として政治的教養を育む教育(以下「政治的教養の教育」という)を行ってきたところだが、改正法によって選挙権年齢の引下げが行われたことなどを契機に、習得した知識を活用し、主体的な選択・判断を行い、他者と協働しながら様々な課題を解決していくという国家・社会の形成者としての資質や能力を育むことが、より一層求められる。

 このため、議会制民主主義など民主主義の意義、政策形成の仕組みや選挙の仕組みなどの政治や選挙の理解に加えて現実の具体的な政治的事象も取扱い、生徒が国民投票の投票権や選挙権を有する者(以下「有権者」という)として自らの判断で権利を行使することができるよう、具体的かつ実践的な指導を行うことが重要である。

 その際、法律にのっとった適切な選挙運動が行われるよう公職選挙法などに関する正しい知識についての指導も重要である。

 他方で、学校は、教育基本法第一四条第二項に基づき、政治的中立性を確保することが求められるとともに、教員については、学校教育に対する国民の信頼を確保するため公正中立な立場が求められており、教員の言動が生徒に与える影響が極めて大きいことなどから、法令に基づく制限などがあることに留意することが必要である。

 また、現実の具体的な政治的事象を扱いながら政治的教養の教育を行うことと、高校等の生徒が、実際に、特定の政党などに対する援助、助長や圧迫などになるような具体的な活動を行うことは、区別して考える必要がある。

 こうしたことを踏まえ、高校等における政治的教養の教育と、高校等の生徒による政治的活動等についての留意事項等を、以下のとおり取りまとめたので、通知する。

 また、このことについて、各都道府県教委においては、所管の高校等および域内の市区町村教委に対して、各指定都市教委においては、所管の高校等に対して、各都道府県知事および構造改革特別区域法第一二条第一項の認定を受けた地方公共団体の長においては、所轄の高校等および学校法人等に対して、附属学校を置く各国立大学法人学長においては、設置する附属高校等に対して、周知していただくようお願いする。

 なお、この通知の発出に伴い、昭和四十四年十月三十一日付文初高第四八三号「高校における政治的教養と政治的活動について」は廃止する。

第1 高校等における政治的教養の教育

 教育基本法第一四条第一項には「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」とある。このことは、国家・社会の形成者として必要な資質を養うことを目標とする学校教育においては、当然要請されていることであり、日本国憲法のもとにおける議会制民主主義など民主主義を尊重し、推進しようとする国民を育成するに当たって欠くことのできないものであること。

また、この高校等における政治的教養の教育を行うに当たっては、教育基本法第一四条第二項において、「特定の政党を支持し、またはこれに反対するための政治教育その他政治的活動」は禁止されていることに留意することが必要であること。

第2 政治的教養の教育に関する指導上の留意事項

1.政治的教養の教育は、学習指導要領に基づいて、校長を中心に学校として指導のねらいを明確にし、系統的、計画的な指導計画を立てて実施すること。また、教科においては公民科での指導が中心となるが、総合的な学習の時間や特別活動におけるホームルーム活動、生徒会活動、学校行事なども活用して適切な指導を行うこと。

 指導に当たっては、教員は個人的な主義主張を述べることは避け、公正かつ中立な立場で生徒を指導すること。

2.政治的教養の教育においては、議会制民主主義など民主主義の意義とともに、選挙や投票が政策に及ぼす影響などの政策形成の仕組みや選挙の具体的な投票方法など、政治や選挙についての理解を重視すること。あわせて、学校教育全体を通じて育むことが求められる、論理的思考力、現実社会の諸課題について多面的・多角的に考察し、公正に判断する力、現実社会の諸課題を見いだし、協働的に追究し解決する力、公共的な事柄に自ら参画しようとする意欲や態度を身に付けさせること。

3.指導に当たっては、学校が政治的中立性を確保しつつ、現実の具体的な政治的事象も取扱い、生徒が有権者として自らの判断で権利を行使することができるよう、より一層具体的かつ実践的な指導を行うこと。

 また、現実の具体的な政治的事象については、種々の見解があり、一つの見解が絶対的に正しく、他のものは誤りであると断定することは困難である。加えて、一般に政治は意見や信念、利害の対立状況から発生するものである。

 そのため、生徒が自分の意見をもちながら、異なる意見や対立する意見を理解し、議論を交わすことを通して、自分の意見を批判的に検討し、吟味していくことが重要である。

 したがって、学校における政治的事象の指導においては、一つの結論を出すよりも結論に至るまでの冷静で理性的な議論の過程が重要であることを理解させること。

 さらに、多様な見方や考え方のできる事柄、未確定な事柄、現実の利害等の対立のある事柄などを取り上げる場合には、生徒の考えや議論が深まるよう様々な見解を提示することなどが重要であること。

 その際、特定の事柄を強調しすぎたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げたりするなど、特定の見方や考え方に偏った取扱いによって、生徒が主体的に考え、判断することを妨げることのないよう留意すること。また、補助教材の適切な取扱いに関し、同様の観点から発出された平成二十七年三月四日付二六文科初第一二五七号「学校における補助教材の適正な取扱いについて」にも留意すること。

4.生徒が有権者としての権利を円滑に行使することができるよう、選挙管理委員会との連携などによって、具体的な投票方法など実際の選挙の際に必要となる知識を得たり、模擬選挙や模擬議会など現実の政治を素材とした実践的な教育活動を通して理解を深めたりすることができるよう指導すること。

 なお、多様な見解があることを生徒に理解させることなどによって、指導が全体として特定の政治上の主義もしくは施策または特定の政党や政治的団体などを支持し、または反対することとならないよう留意すること。

5.教員は、公職選挙法第一三七条および日本国憲法の改正手続に関する法律(平成十九年法律第五一号)第一〇三条第二項において、その地位を利用した選挙運動および国民投票運動が禁止されており、また、その言動が生徒の人格形成に与える影響が極めて大きいことに留意し、学校の内外を問わず、その地位を利用して特定の政治的立場に立って生徒に接することのないよう、また、不用意に地位を利用した結果とならないようにすること。

第3 高校等の生徒の政治的活動等

 今回の法改正によって、十八歳以上の高校等の生徒は、有権者として選挙権を有し、また、選挙運動を行うことなどが認められることとなる。このような法改正は、未来のわが国を担っていく世代である若い人々の意見を、現在と未来のわが国の在り方を決める政治に反映させていくことが望ましいという意図に基づくものであり、今後は、高校等の生徒が、国家・社会の形成に主体的に参画していくことがより一層期待される。

他方で、①学校は、教育基本法第一四条第二項に基づき、政治的中立性を確保することが求められていること②高校等は、学校教育法(昭和二十二年法律第二六号)第五〇条および第五一条ならびに学習指導要領に定める目的・目標等を達成するべく生徒を教育する公的な施設であること③高校等の校長は、各学校の設置目的を達成するために必要な事項について、必要かつ合理的な範囲内で、在学する生徒を規律する包括的な権能を有するとされていること―などにかんがみると、高校等の生徒による政治的活動等は、無制限に認められるものではなく、必要かつ合理的な範囲内で制約を受けるものと解される。

 これらを踏まえ、高校等は、生徒による選挙運動および政治的活動について、以下の事項に十分留意する必要がある。

 なお、地方自治法(昭和二十二年法律第六七号)等の法律に基づき、公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定が準用される住民投票において、投票運動を高校等の生徒が行う場合は、選挙運動に準じて指導等を行うこととし、日本国憲法の改正手続に関する法律第一〇〇条の二に規定する国民投票運動を高校等の生徒が行う場合は、政治的活動に準じて指導等を行うこととする。

1.教科・科目などの授業のみならず、生徒会活動、部活動などの授業以外の教育活動も学校の教育活動の一環であり、生徒がその本来の目的を逸脱し、教育活動の場を利用して選挙運動や政治的活動を行うことについて、教育基本法第一四条第二項に基づき政治的中立性が確保されるよう、高校等は、これを禁止することが必要であること。

2.放課後や休日などであっても、学校の構内での選挙運動や政治的活動については、学校施設の物的管理の上での支障、他の生徒の日常の学習活動などへの支障、その他学校の政治的中立性の確保等の観点から教育を円滑に実施する上での支障が生じないよう、高校等は、これを制限または禁止することが必要であること。

3.放課後や休日などに学校の構外で行われる生徒の選挙運動や政治的活動については、以下の点に留意すること。

▽放課後や休日などに学校の構外で生徒が行う選挙運動や政治的活動については、違法なもの、暴力的なもの、違法もしくは暴力的な政治的活動等になるおそれが高いものと認められる場合には、高校等は、これを制限または禁止することが必要であること。

 また、生徒が政治的活動などに熱中するあまり、学業や生活などに支障があると認められる場合、他の生徒の学業や生活などに支障があると認められる場合、または生徒間における政治的対立が生じるなどして学校教育の円滑な実施に支障があると認められる場合には、高校等は、生徒の政治的活動等について、これによる当該生徒や他の生徒の学業などへの支障の状況に応じ、必要かつ合理的な範囲内で制限または禁止することを含め、適切に指導を行うことが求められること。

▽改正法によって選挙権年齢の引下げが行われ、満十八歳以上の生徒が選挙運動をできるようになったことに伴い、高校等は、これを尊重することとなること。

 その際、生徒が公職選挙法などの法令に違反することがないよう、高校等は、生徒に対し、選挙運動は十八歳の誕生日の前日以降可能となることなど公職選挙法上、特に気を付けるべき事項などについて周知すること。

▽放課後や休日などに学校の構外で行われる選挙運動や政治的活動は、家庭の理解のもと、生徒が判断し、行うものであること。

 その際、生徒の政治的教養が適切に育まれるよう、学校・家庭・地域が十分連携することが望ましいこと。

第4 インターネットを利用した政治的活動等

 インターネットを利用した選挙運動や政治的活動については、様々な意見・考え方についての情報発信や情報共有などの観点から利便性、有用性が認められる一方で、送られてきた選挙運動用の電子メールを他人に転送するなどの公職選挙法上認められていない選挙運動を生徒が行ってしまうといった問題が生じ得ることから、政治的教養の教育や高校等の生徒による政治的活動などにかかる指導を行うに当たっては、こうしたインターネットの特性についても十分留意すること。

第5 家庭や地域の関係団体等との連携・協力

 本通知の趣旨にのっとり、現実の政治を素材とした実践的な教育活動をより一層充実させるとともに、高校等の生徒による政治的活動等に関して指導するに当たっては、学校としての方針を保護者やPTAなどに十分説明し、共有することなどを通じ、家庭や地域の関係団体等との連携・協力を図ること。

※この通知の第3以下における用語の定義について

 「選挙運動」とは、特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為をすることをいい、有権者である生徒が行うものをいう。

 「政治的活動」とは、特定の政治上の主義もしくは施策または特定の政党や政治的団体等を支持し、またはこれに反対することを目的として行われる行為であって、その効果が特定の政治上の主義等の実現または特定の政党等の活動に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉になるような行為をすることをいい、選挙運動を除く。

 「投票運動」とは、特定の住民投票について、特定の投票結果となることを目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為をすることをいう。

( 2015-11-04付)